分身

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分身

 星が控えめに輝く秋の澄んだ夜空を見上げ、雲の切れ間から時折姿を現す自分の分身を眺める。  べつに、本当に分身なわけではない。ただ、勝手にぼくがそう錯覚しているだけなのだ。  ぼくの名前は、花村月依(はなむらるい)。  ―――月の様に人に安らぎを与え、心の拠り所として静かに佇む。  そんな人に成って欲しいと願いが込められ、名付けられた。  だから、ぼくは月を見ると自分の分身なのだと錯覚してしまう。ぼくは月が好きだ。つまりは、自分のことが好きなのだ。  皆、月は綺麗だと言う。だから、自ずとぼくは自分のことを綺麗だと錯覚してしまっている。  そんな風にして、ぼくの性格は出来上がった。  ただ、ある意味では、ぼくはひどく汚れているのだと思う。  見目麗しい人がいたとして、その人生も美しいとは限らない。人生とは、そんな生易しいものではないのだ。  この世には、一般人種の他に花蜜食人種と蜜花人種というものが存在する。そして、ぼくは蜜花人種だ。  花蜜食人種と蜜花人種(二種)は、産まれたときはどちらなのか判定不可能だ。ただ両親が二種の番の場合、一般人種が産まれることはないので必然的に二種のどちらかということになる。  早い人で十二歳前後から、遅い人で二十歳前後までには、血液検査で二種の判別がつく。ぼくは比較的早く中学生の時に、自分が蜜花人種だと判定された。
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