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名刺に書かれていたメールアドレスを頼りに葵と連絡を取り合い、土曜日の11時、忍は川岸に建つ倉庫の前にいた。
「……」
忍も画材屋に勤めているのだから、絵には湿気が大敵だと判っていた。なぜわざわざ川岸に、と思っていたのだが、扉が開き、塗料でべったり汚れたエプロンを着た葵が出迎えた。
「ちょっと手が離せなかったのよ。ごめんね。ここ、すぐに判った?」
「あ、はい」
「今日ここに来ること、誰かに言った?」
「まさか…言いませんよ」
「そう…」
「なんか、秘密の恋みたいですね」
「何言っているのよ、秘密の恋でしょ」
葵は忍をアトリエに通した。
「ごめんなさい、ちょっと絵の具を取ってくるから、先に『赤の部屋』のプレートが掲げられた部屋に行ってくれる?」
「あ、はい…」
忍は言われるがままにアトリエの奥に入り、言われた通りの部屋のドアを開けた。
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