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会社からの帰宅途中、珍しい人に声をかけられた。
「へい!そこのぼっちゃん!寄っといで寄っといで」
その人物は真夜中の公園で、ブルーシートの上に座って何やら商売みたいなことをしていた。
ワークキャップを深く被っていて、顔は口元以外ほとんど見えないが、容姿と声から察するに60、いや70歳くらいのお年寄りだろう。
本来ならそんな怪しい人物に声をかけられても反応すべきではない。ないのだが、なんだか妙に引き付けられて俺は公園へと入り、男の前にたった。
「そんなところで何をしてるんですか?」
言ってから後悔に襲われる。面倒なことにならなければいいが。
「見ての通りさ。写真を見せびらかしてるんだ」
嗄れた声で老人が答える。
「写真を?」
一体何のために。不思議に思って視線を落とし、写真を見てみると。
「何だこれ・・・」
ブルーシートに並べられた何枚もの写真。その全てに何も写ってなかった。時間帯が時間帯なだけに、公園の電灯下がないとよく分からない一面黒色。
もう4月なのに、あまりの気持ち悪さで背筋が寒くなった。
「これこれ。そんな警戒せんでもよい。それは別にお前さんをどうこうするようなもんではないよ」
「は、はぁ・・・」
そう言われても怪しいものは怪しい。夜道に突然現れた全身タイツの人間と同じくらい。
だからいつ何が起きても良いよう、心だけは準備しておく。
「そんなに不安なら。ほら、まずは触ってみたらどうだ?」
「写真をですか?」
「そうだ。しかし俺からすると種も仕掛けもないただの写真なんだがね」
老人が目の前に置いてある写真を1枚とって、不思議そうにじーっと眺める。その様子を見ている限りでは、本当に普通の写真なのだろう。
「じゃあ、失礼して」
その場にしゃがみこんで、1枚その中から拝借してみた。すると。
「わぁ!」
急に意識がぼやっとして視界が真っ白になっていく。嵌められた!そう思った時には、既にほとんど意識が残っていなかった。
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つい今の今まで起きていたはずなのに夢を見た。
全く知らない女性と2人、手を繋いで家の近所を歩いている。向こうがこっちを見て凄く楽しそうに笑うもんだから、こっちも釣られてにやけてしまう。
きっとこれは、30代近くにもなって彼女1人すら作れない、悲しい男の妄想なのだろう。
でも何故だか、その景色に違和感を感じなかった。
それはまるで遠い昔を思い出しているようで。
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「はっ!」
目を覚ます。どうやら、しゃがんだ状態のまま寝てしまってたらしい。どんな寝方だよ。
「どうやら戻ってきたようだな」
男は愉快そうに口元を歪めながら、そう言ってくる。普通の写真と嘯いた男に文句の一つや二つ、いやもっと。言ってやりたくなったのだが突然、正体不明の違和感に襲われて黙り込んでしまう。
男かそれとも周囲の景色か。分からないけど何かがおかしい。
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