写真を見せる老人

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「さて、それじゃあ時間もないみたいだしな。この写真と・・・これ。この2枚でお前に見せる写真は最後だ」  さっきまでとは違い、慎重に選ばれた写真を俺は受け取った。ていうかこれ、2枚でも良かったのか。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  まず見たのは結婚式の夢。  でも、自分がいるのは新郎のポジションではなく、客席の隅っこ。そこから新郎新婦の座る、スポットライトの当たったメインテーブルを眺めていた。  メインテーブルでは花嫁の方が起立して、何やら手紙を読み上げている。おそらく両親への手紙というやつだろう。  どうしても手紙を読む花嫁より隣で号泣している新郎に目がいくのは、きっとそういうことなのだろう。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  最後に見たのはお葬式だった。  沢山の参列者が、亡くなった人との別れを惜しんでいる。  祭壇に飾られた写真には見覚えのある顔が写っていた。年老いていて、多少変化はあるものの、見間違えることはない。さっき見た遊園地の夢で隣にいた女性だ。  あの夢からどれだけ時が経ったは定かではない。  でも、その時から変わらぬ美しさがそこにはあった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「いやすまんな。本来ならもっと時間をかけて進めたかったのだが・・・」  覚醒すると同時に話しかけられた。 「進めるって何をです?」  怪訝な表情で聞き返す。 「何をって?計画をだよ。俺はお前と会うためだけにわざわざここまで来たんだからな」 「俺と?えっ?なんか普通に怖い・・・」 「まぁ何も知らないお前からしたら、確かに怖いといえば怖いかもな。でも俺は別に悪いことをしに来たわけではないぞ?」 「じゃあ何の用があってここにいるんすか」  俺がそう言うと、男は唇の両端を持ち上げて人の良さそうな笑みを見せた。 「お前、今日死のうとしてたろ?」 「へっ?」 「でも結局、死ねずにこうやって帰路についたわけだ。そして、おそらくこれからも何度か同じことを繰り返す」  何を言ってるかは分かる。前半部分については事実その通だから。ただ何故、この男がそれを知っているのかが分からない。そして何故これからの事を言えるのかが分からない。 「でもな、お前は死なない。もがき苦しみながらも最後まで人生を走りきる。そんなお前に言ってやりたいことがあってな。今、ここにいるわけだ」 「言いたい・・・こと?」  なんだろう。文句でも言われるのだろうか。別に俺はこの男になんかした記憶もないけど。  そんな俺の心配をよそに、男はゆっくりと顔を上げこちらを見据えると、満面の笑みで言い放った。 「ありがとよ!生きててくれて。人生色々あったけど、最終的に楽しかったぞ!」  ようやく見えた男の顔は自分とよく似ていて。  あぁきっと、これもまた夢なんだろうと思った。  だって、最後の言葉を言い終わった直後、男も写真も粒子となって夜闇に消えていったのだから。
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