ある老人の告白

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ある老人の告白

「ようこそ、はるばる遠いところからおいで下さいました」  老人の声は思ったよりもはるかに若々しく、明瞭だった。数日前から体調を崩しているとのことで、今は床に臥せっている。    挨拶を返し、私はここに来た目的を話した。  私は作家で、帝国時代の魔法生物兵器の開発と運用について取材している。  ある日、私は防衛庁戦史編纂室の室長から「阿波県T市にある老人がいて、彼は黎明期に魔法生物兵器開発に民間人として協力したらしい」と言われた。私は、紙の記録だけでは分からない貴重でユニークな情報を必ず得られるであろうと、東京府より650km彼方のこの地へやってきた。  説明を聞いて、老人は微かに頷いた。 「なるほど、確かに私は若い頃に軍に協力したことがあります。お望み通りの内容ではないかもしれませんが、とにかくあの当時のことをお話ししましょう。それに……」  そこまで言ってから老人は、床の間に置いてある黒い壺に目をやった。一見何の変哲もないただの丸い小さな壺であるが、しかしどことなく異様な雰囲気を醸し出している。 「こうしてあなたがここに来たということは、ついに話すべき時が来たということなのでしょう。私の生涯を決定づけた、あの過ちについて話すべき時が……」  老人は静かに、淡々と、それでいて声に僅かに躊躇いの色を滲ませつつ、私に語り始めた。
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