俺は『バケモノ』でよかった

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「モンスターを倒したお礼に飯くらい恵んでくれてもいいだろうに」  慣れたことだった。  姿を晒せば人々は怯え、男を拒絶した。  村の外れで木の陰に腰を下して休んでいると、一人の少女が駆け寄ってきた。 「あの、おじさん、ありがとう」  怯えた声で差し出されたのは二つの握り飯だった。  少女の純真な目、それは恐怖の中にも間違いなく感謝の念があった。  人間らしい食事、何時以来だろうか。 「ありがとうお嬢ちゃん」  礼を言って竜の爪が生えた手を伸ばす。握り飯の包みを受け取ろうとしたその時……。 「な、何やってるの!?」  慌てて駆け寄ってきた母親だった。少女を抱き上げるとそそくさと村の方へ逃げていった。  残されたのは砂に塗れた握り飯だけだった。 「……やれやれ」  男は握り飯を拾い上げると、砂を払って二つぺろりと平らげる。  ――やはり人間の食事は美味い。  男は村を去ろうと立ち上がる。騎士でも呼ばれたら面倒くさいことになる。  だが、遠くで村人が何かを叫んでいるのが聞こえた。  耳を澄ます。 「モンスターだ! また現れたぞ!」 「きっとあのバケモノ男のせいだ!」  俺のせい、というのは半分外れで半分正解だ。  モンスター達は報復に来たのだ、別に俺が呼び寄せた訳じゃない。  そこまで考えて、男は自嘲気味に笑った。 「俺が殺したんだから、報復に来たなら俺のせいか」  感謝など求めていなかった。  ただ腹が減ったから、食料でも分けてもらえればと村に寄った。  金ならある。盗賊を殺せばいくらでも金は手に入った。  姿をフードで隠し金さえ払えば、人々は物を売ってくれた。  しかし、村の近くに来るとモンスターが居た。  だから殺し尽くした。  それだというのに姿を見せただけで随分と嫌われたものだ、と男は思う。  ここまで嫌われたとなると、村ではもう食料を買うことは出来そうにない。  ならば、助ける義理も無い。  だが自然と足は村人達の声がする方へ向かった。  村を横切ると何処からか先ほどの少女の声で「トカゲのおじさん」と呼ばれた気がした。 『おじさん』はいただけないな、と心の中で思う。  数えが正しければ男はまだ十六年しか生きていない、人間で言えばお兄さんと呼ばれる年齢の筈だ。
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