8人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
ひとりぼっちのヒーロー
今日、入学式だったんだね。君のママがインスタグラムに乗せてた写真を見たよ。
おめでとう。君をここまで育ててきたお母さんはきっとすごく感動していたんだろうね。
僕もなんだか、胸がいっぱいになってしまった。なにげないスナップだけど、あれはそういう気持ちがまっすぐ伝わってくる写真だったんだ。
写真に写っていた河沿いの道は通学路なのかな。背景の桜は半分散っていたけれど、桜吹雪の中でまっすぐな髪をなびかせた君の姿は、凛としてとても美しかった。
2020.4.6 23:46 既読
学校生活にはもう慣れたかい? 友達はできた?
もしなにかつらいことがあったら、なんでも打ち明けてほしい。僕はいつだって君の味方だよ。
そうだ、僕の学生時代の話をしようか。
僕は教室ではあまり目立つタイプじゃなかった。みんなが面白いことを言い合って笑っているのを、僕は教室の隅でじっとみつめている。
でも、たまに――ごくたまに僕にもしゃべるチャンスがまわってくる。
急にみんながこっちを見て、突然話題を振ってくるときがあるんだ。僕は「なにか気のきいたこと言わなくちゃ」って緊張しながら、大急ぎで記憶をさらう。そして、前にすごくうけていた誰かの話を真似するんだけど、なぜか僕がやると、まったくうけない。
あんなことを言ったらみんなが喜んで笑ってくれるんだなあって、うらやましい気持ちと一緒に「いつか僕も使ってみよう」って大事に覚えていたネタなのにな。同じ台詞でも、僕が言うとあんまり面白くないみたいだ。
僕はみんなとはちょっと違うのかな。センスっていうか、ノリっていうか、そういう僕には容易につかみがたいなにか。それがきっと足りなかったんだろう。
僕には、そういう同世代のノリを肌感覚でわかる彼らがうらやましかった。同時に、うまく会話にのれずにオロオロしている自分が滑稽で悲しかった。
そういうことが何度かあって、次第に僕は人前で口をきくのが恐くなってしまった。
大人数でワイワイするのは苦手で、教室の片隅で本を読んでいた。
いつか僕の言葉で、誰かを笑わせることができたらいいなと思いながら。
いや、本当は……空気が読めるとか、笑いのセンスがあるとか、そんなことで判断される軽薄な会話じゃなくて、もっと深くて優しい言葉を誰かとかわしたかったんだ。
そうだね。いつか君とそんな会話をしてみたい。ユーモアセンスのあることは言えないけど、いつだって誠実な言葉を選ぶよ。
僕は絶対に、君に嘘はつかない。
自分にだって嘘はつかない。
不器用でもいいから、まっすぐに生きていたいんだ。
2020.5.12 23:45 既読
最初のコメントを投稿しよう!