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学校での僕は、ヘラヘラ笑ってばかりだった。
『バケサブ』を一緒にやる友達とは、プレイスタイルがクズな奴や持ちキャラでマウントを取ってくる奴もいる中でそれでも笑顔でコミュニケーションを図っている。
そうでもしないとハブられる。学校生活を送る上で、ハブりは大敵だ。
「玉藻の前ちゃん、ぐうシコい」
ある日、『バケサブ』仲間の一人・前田が言った。昼休みのことだ。
玉藻の前とは狐の妖怪のことで、『バケサブ』でも実装されているSSレアリティの超人気キャラだ。最強クラスの性能のみならず、人気絵師による超セクシーな美麗イラストも人気の理由だ。
前田は最近、『バケサブ』限定の玉藻の前イラスト入り五千円分プリペイドカードを手に入れた。公式サイトのキャンペーンで当選したのだ。
そのカードに描かれた限定美麗セクシーイラストを眺めながら、「シコい」だのと宣っている。確かに、中二男子には刺激が強い。
「いいなー限定イラスト」
「俺も応募すればよかったー」
「てかマジで当てちゃうのウケる。玉藻の前愛溢れすぎ」
仲間みんなが前田を羨む。
シコい発言に内心ドン引きしていた僕だけど、正直な話、僕もそのプリペイドカードが羨ましかった。玉藻の前は僕も『バケサブ』の中で一番好きなキャラだ。応募したかったが、玉藻の前推しで通っている友達に遠慮してしまった。前田は連合軍のリーダーでもあるから、機嫌を損ねたら軍を外されてしまうかもしれない。
「いいなーいいなー、ほんと羨ましい~」
僕も友達たちに同調するように、前田を羨んだ。そうすることで前田が気分もよくなるだろうし、要するにゴマすりだ。
「いいだろー。ほれほれ、写真撮ってもいいぞ」
案の定、カードを見せびらかされる。
「今スマホ持ってないし」
ブーブーと不満げに口にすると、別の友達が驚きの声をあげた。
「え? お前まだスマホ学校に預けてんの?」
「うん」
「相変わらず真面目ー」
また別の一人が呆れたように嘲笑した。
うちの学校はスマホ・携帯の持ち込みは禁止だ。やむを得ず持ってくる場合は、職員室に預ける規則になっている。
だけど、そんなルールを真面目に守っているのも入学したての一年生ぐらいで、学年が上にいくにつれ律儀に守る奴は減ってきている。現に友達のほとんどもこっそりとスマホを忍ばせている。もちろん大っぴらに使用するはずもなく、ゲームやSNSも控え、見つからないように要領よくだ。
目立たないように、いい子であるように。それを信条に生きている僕は、バレるリスクを冒してまでスマホを手元に置こうとは思わない。
「じゃあ、充分目に焼き付けてヌくがいい」
「ははははっ」
僕は笑った。友達の下ネタに。目を細めて、過剰に笑った。
それから数日後のことだった。
プリペイドカードの紛失事件が起きたのは──。
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