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「お前、何であんな連中と友達やめようとしないの?」
ある時、少年Aが僕に尋ねた。放課後の図書館で、いつものように帰り際にロビーのベンチに座って話をしている時だった。
え? と僕は問い返した。
今まで少年Aの方から特に言及してこなかったから、驚いてしまった。
──だってあいつら、マルチで周回してくれるからアイテムいっぱい手に入るし、強いキャラいっぱい持ってるし──と、僕はあくまでゲームの有利性が目的だと説いた。
あいつらも俺の持ってるキャラをアテにしてるし、あいつらだって俺のこと切れないよ。そう力説した。
「お前、どうにかなると思ってるだろ」
なのに、少年Aは納得しなかった。
「クラスが替わればやめてくれる、いずれ自分に飽きて別の奴に矛先を変えてくれる、高校に行けばやめてくれる、時間が解決してくれる。そう思ってるだろ」
彼がこんなに喋ったのは初めてだったので、僕は閉口を余儀なくされた。
「甘いんだよ。奴等はお前を解放しない。一生お前に付きまとうぞ。奴等をどうにかしない限り、お前は一生奴等の玩具だ」
──大げさじゃないか……?
僕は半ば呆れ気味に、少年Aを見ていた。
だけど、彼の言い分も間違ってはいないと思った。彼の言葉は、僕の心にあるどす黒い澱に種を蒔いて、一瞬で花を咲かせてしまった。
燻っていたのだ。それを彼は、見抜いていた。
少年Aは、冷徹な目で僕を見ていた。完全に見透かしている。僕を理解している目だ。
元々愛想のいい方ではないが、こんな目を向けられたのは初めてだった。
僕はその目を見て、何故かぞわっと怖気立った。
怖いからではない。超難易度の敵と戦っている時に、決死の覚悟で必殺技を放つ感覚に似ていた。僕の決定打で敵を倒すと、友達は歓喜の声をあげてハイタッチしてくれるものだった。
そんな友達たちにとって、僕は友達でも何でもなく、ただの駒なんだという自覚はあった。『バケサブ』という共通の話題から繋がった仲間たち。それ以上でもそれ以下でもない。
それを言うなら、お互い様だ。
僕の背中を後ろの席からシャーペンで刺してきた奴はキャラが足りなくて僕を頼ってくるし、僕に肩を組んで隠れて鳩尾を殴るあいつはマルチプレイできる時間帯が僕と一番合うからやりやすいと言っていたし、前田は授業中に僕に丸めたティッシュを投げつけて僕があたかも玉藻の前でヌきまくった風に見せかける笑いをとるけど、結局は僕と玉藻の前談義で華が咲く。
『バケサブ』のプレイヤー。それだけでしか価値を見出せないつまらない連中だ。
「殺しちまえよ」
少年Aが、僕に囁いた。
──そうだね、殺してやればいいね。
僕は、答えた。
この瞬間の、心臓に何かがぞわぞわと蠢く高揚感を、僕は一生忘れないだろう。
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