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「ほっとけよ」
僕の背後で、少年Aが言った。
「あの子はこうなる運命なんだよ。見ろよ、あんなに苦しそうに助けを求めてるってのに、母親にもほっとかれてる。あの母親のもとに生まれた以上、この先もずっとほっとかれる運命にある」
少年Aは、僕の心に囁き続けた。
「ちょっ……何やってんの!?」
母親は今になって女の子の異変に気付き戻ろうとするが、上りエスカレーターを逆方向に下るには時間がかかる。カンカンと必死な靴音が響く。
僕は、カバンから裁断ばさみを取り出した。
「紐を切る気かよ。いいのかなー? どうせあんな母親だから、助けてもらったことなんか棚に上げて後々賠償請求されるぞ? 娘の大事なバッグだったのにーみたいな。助け損だよ、助け損」
──……。
それでも、僕はサコッシュの紐を切った。
ジョキッという感触がはさみを握る手の平から体全体にまで伝わり、気持ちがよかった。
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