鋏。

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 首が解放された女の子は、どさっと座り込んだ。  ようやくエスカレーターが止まる。通りがかりの人が騒ぎに気付いて非常ボタンを押したのだ。 「ちょっと、ねぇ! 大丈夫!?」  母親が必死で声を掛けると、顔を真っ赤にしていた女の子は息も絶え絶えにコクンと頷いた。 「どうしました?」と警備員が駆け付ける。 「あの──」  冷静さを失っている母親に代わり(そもそも母親は何が起きたのかわかっていないので)、僕が事情を説明した。一から十まで、細かく丁寧に。  母親は事情を知るや、顔が青ざめていく。それもそうだ。娘が死にかけたんだから。  母親は(うな)されたように、僕に何度もお礼を言った。 「でも、この子のバッグの紐を切ってしまいました」  そう言うと、母親は一瞬きょとんとした後、そんなことどうでもいいとばかりに「ごめんなさい」と「ありがとうございます」をひたすら連呼していた。  その時、僕のスマホが鳴った。クエスト開始を知らせるアラームだ。  あ、やばい。始まってしまった。  僕は、さらに話を聞こうとしている警備員から逃げるために、「失礼します」と止まっているエスカレーターを駆け上がった。  目立たないように、いい子であるように。巻き込まれないために、僕は逃げなければならない。それに、それどころではない。
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