鋏。

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 目立たないように、いい子であるように。  そんな信条を掲げる僕は、図書館でいつも少年Aと過ごしている。  彼は同じ中学ではないようで、僕が放課後に図書館に寄ると、彼はいつも僕の座る席の向かい側にいて、梶井基次郎の『Kの昇天』とかを読んでいる。  制服姿の僕に対し私服を着ていて(いつも同じような黒い服だ)、学校に行っているような素振りを微塵も見せない。名前を聞いても名乗らず、どこに住んでいるかも謎だ。  だから、僕は彼を少年Aと呼ぶことにしている。  私語厳禁の図書館ということもありこれといった会話もないが、帰りに立ち寄るロビーでは少しだけ話をする。  世間話とか学校の話とかゲームの話とか、とりとめのない内容ばかりだ。  だけど、彼と話していると不思議と気分が落ち着いて、心を通い合わせているのだと実感する。  ゲームといえば、僕は学校の友達とあるスマホゲームをしている。『バケモノ・サブジェクト』というカードバトルゲームだ。通称『バケサブ』。  プレイヤーはバケモノマスターとなり、バケモノと呼ばれるキャラクターたちをデッキに組んだりコマンド入力したりして操作する。連合軍と呼ばれるチーム対戦システムがあり、レイドバトルが熱い人気ゲームである。  少年Aともよく『バケサブ』の話をする。彼は無気力で愚痴っぽいところがあり、キャラクターやクエストの難易度のことで文句を言ったり毒舌を撒き散らしたりする。  ネット掲示板でイキるオタクみたいだが、僕も一緒になって愚痴り合っているので、それはそれで楽しい。
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