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『猫また。こうなったら正々堂々とダンスで決着をつけるにゃ』
『なぜ』
『何でもいいにゃ。ダンスなら負けないにゃ』
食事を終えた猫または、目を細くしました。猫または化け猫のことなど相手にしていなかったのです。何せ、化け猫は人間たちにこびへつらっている有様ですから。
『おまえの踊りはクネクネして気味が悪い』
猫またが言うと、化け猫はフンと鼻を鳴らしました。
『そっちこそ、ドタバタして優雅じゃないくせに。二流だにゃ』
『何?』
安い挑発でしたが、猫または穏やかではありませんでした。踊りは猫またの一番得意なことだったからです。
当然、言い争いになりました。化け猫は化け猫で一歩も譲りません。テクニックやらレパートリーやらをお互いに主張してみてもどうにもなりません。もう実演しかないと、猫または頭にかぶる赤い手ぬぐいを取りに行きかけました。
「ハハハ。よく分かんないけど、二人って仲いいねー」
青年のお気楽な言葉に、猫またと化け猫は彼を振り返りました。
『……この人間食っていい? 顔がムカつくにゃ』
『これはオレの獲物だ』
猫またが目をランランとさせると、化け猫はビクリとしました。腹ぺこでなければ負ける気はしません。
が。
『お兄さーん。猫またがいじめるにゃー』
化け猫が青年にすり寄ります。やれやれ、と猫または思いました。化け猫の猫かぶりにだけは勝てそうにありません。
青年はまんざらでもない様子で、普通の三毛猫そっくりの化け猫を優しくなでるのでした。
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