1.腹ぺこ猫また

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1.腹ぺこ猫また

 昔むかし、この国の山には「猫また」という恐ろしい化け物がすんでいました。伝説によると、年老いたネコが猫またになるとされ、人に化けたり人を襲ったりしたそうです。見た目は少しばかり大きな普通のネコですが、ただ1つ、根元から分かれた2本のしっぽを持っているという特徴がありました。  さて、現代。とある山の中に立てられた古い小屋に、1匹の猫またがいました。  この猫または大層な腹ぺこでした。トラのような模様の大きな体を丸めて、薄暗い小屋の中でほとんど一日中じっとしています。2本のしっぽも力なく伸びていました。  ある日のことでした。猫またがいつものように丸まっていると、突然、小屋の扉がキイと開いたのです。 「すみませーん。て、誰もいないか」  猫または薄目を開けてそちらを見ました。入ってきたのは1人の人間の青年。猫またにとってはごちそうです。  しかし、猫または腹ぺこでした。とても青年に飛びかかろうという元気はなかったのです。どうすることもできずにじっとしていると、青年が「あっ」と言いました。 「ネコだ」  薄汚れた木の床に土足で上がった青年は、何と自分から猫またに近づいてきました。  
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