ハッピー・ブロッコリー

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「どうして、俺の愛をわかってくれないんだ!!」  八畳一間の安アパートで放たれた(ふみ)()の叫びは、近所迷惑間違いなしの音量であった。 「凡人にとっての愛は、見返りありきなんだよ。誰もが郁也みたいに崇高に、一途に愛を注げるわけじゃない」  狭い居間の中心で胡坐(あぐら)をかく郁也に、冷静そのものの声が浴びせられる。恨めし気に声の主に直ると、同じタイミングで振り返った(みつる)と目が合った。台所で昼餉の支度に勤しむ同じ大学の友人は、菜箸を片手に呆れた様子で口を開いた。 「少なくとも、とは両想いなんだろ? たとえ、物言えぬ相手だとしても幸せなことじゃないか」 「それ、とはなんだ! それ、とは!!」  憤慨した郁也は、大事に手にしていたものを、トロフィーのごとく頭上に掲げて見せた。 「(ふみ)ちゃんの前世は、青虫なんだろうね、きっと」  充が諦念の呟きを漏らして両手を差し出すと、郁也の手から厳かに譲渡が行われた。  卵型の輪郭が綺麗な充の小顔を隠すほどの大きさ、「栄養満点だぞ!」と言わんばかりの深緑色、小さな森が掌で咲き誇ったかのようなどこかユーモラスな姿……。  立派に育ったブロッコリーである。
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