妖間と夢

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 カッカッカと近づいてきたものを見る。わらじを履き、膝寸の生地の薄い着物を羽織り、その着物は薄汚れている。その着物の裾からは骨張った膝が見える。そして、骨張った手に長く尖った爪、白い髪は乱れ伸ばしたまま。  顔をよく見ると、肉のない頬、大きなしみ、深いシワを刻んだ老婆であることがわかる。  少女はこないでと思いつつ、家の庭まで逃げる。  だが、その老婆を象った化け物に捕まる。  引き倒され、うつ伏せに倒れた少女は怯えて、家の庭の土を爪に食い込むくらい強く握る。  老婆はその細腕とは思えない力で、少女を仰向けにさせると、その黄ばんでいるだろう歯を剥いて笑ってくる。 『ああ゛!』  少女の土で汚れた素足を、老婆の長い爪が引き裂いていく。  夢であるというのに、痛みを感じる。恐らく現実の世界でも叫んでいただろう。  少女は自分の素足を見てみれば、五本の血の筋が出来上がり、血はミミズのように膨らんだ。  モノクロの世界でこの血だけは赤く色づいている。  老婆は微笑むと、まるでゼリーのように摘むと足からその血を取る。  そして、七輪の網の上に乗せてその血を焼き始めた。じゅうじゅうと湯気が上がり、見る見るうちに血が黒くなっていくのが分かる。  黒こげになった少女の血液を、上を向いて大きく開けた口に放り込んでいく。  その血を食した後、老婆はニヤリとすると爪を振り上げた。  また来る。そう思って俯けば、痛みは来ない。  顔を上げれば、老婆は去って行く。  ついていきたくもないのに、少女の視線はその老婆を追って行くようだ。  カーブを曲がり長い直線に入り、小道を左へと曲がる。 『ダメ! それ以上先には行ってはダメ!』  少女は心の中で叫んだ。その先には曽祖母の住んでいる家がある。そこから先に進んではダメだ。  何故かそう思えたのだ。  小道を左に曲がり橋を渡ったところまでで、少女は恐ろしい夢から解放された。
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