妖間と夢

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 大人になった少女——女性はお腹に子を宿した。  実家からは遠く離れていたが、数ヶ月里帰りをして出産する事にした。  実家で準備されていた部屋は当然あの洋間である。  20年前の子供だった自分の事など、忘れてはいないが気にしていなかったため、なんとも思わずに世話になっていた。  部屋には壁側の隅に置かれた小さなベビーベッドが新たに置かれ、これから産まれてくるであろう我が子を腹の上から撫でた。  隙間風がピューピューと吹いてくる。木枯らしの風が吹く季節である。古い家はガタガタと窓を揺らし、冷たい風が少し入ってくる。  妊娠中は睡眠が浅く、前日の夜は眠れなかったからか、騒がしい風の音にもうつらうつらと眠りについた。  タンタンタタン。夜中に天井から足音が聞こえる。その音はだんだんと近づいてきて、金縛りにあった。布団に入っていて天井を見上げている状態だ。  金縛りにはこの部屋を出てからは全くなかったが、浅い眠りについているせいか、久々にあった。  ふーと息を整え、目を覚ますよう無理やり瞳を開けようとする。  あの恐怖の夢とは別に、金縛りになよくあっていたせいか対処の仕方は分かる。  だが、今回は足音が聞こえる。  いつもはただ天井を見つめ、体が動かないだけで、何も起こらなかったのだ。  足音は自分の真上に来ると、ダンダンと大きな音を立てて、足踏みしているかのようだ。  怖い。久々にその感覚が訪れた。だが、視界はモノクロの世界へ誘われる事はなかった。  金縛りから解放されて、目を開ける。汗をかいた体を拭い、大きくなった腹をさする。 「大丈夫。大丈夫。」  女性は自分へと言い聞かせた。  
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