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ばりばり、むしゃむしゃ、かみかみ、ごっくん。ちゃんとよく噛んで食べないとお腹が痛くなっちゃうからね。じんわり甘い、優しい味。なんでだか、わたしは急に泣きたくなった。
ごちそうさま、なっちゃんのママ。ううん、はるちゃん、久しぶりだね。わたし、ちゃんと約束守ったよ。ずっと一緒だよって、はるちゃんは言ったもんね。はるちゃんはわたしの大事なお友達。だから、はるちゃんの大事ななっちゃんは、わたしの大事なお友達。なっちゃんは、ちゃんとわたしのことを、はるちゃんがつけてくれた名前で呼んでくれたよ。
「ママ? え、どこ? ママ?」
いきなり消えたママを探して、なっちゃんが泣き出した。なっちゃん、大丈夫。なっちゃんのママはわたしのお腹のなかにちゃんといるよ。もう、なっちゃんを怒ったり、たたいたりなんてしない。しくしく泣いているなっちゃんのほっぺをぺろりとなめたら、何だかしょっぱい味がした。変なの、ちょっとだけ胸がぎゅっとする。
「うええええん、パパ〜。先生〜。ママがいなくなっちゃったよお」
どうしよう。お仕事が忙しくて、おうちに帰ってこないなっちゃんのパパも食べた方がいいのかな。たくさん宿題を出す、怖い先生のことも食べた方がいいのかな。でもママを食べてあげたのに、なっちゃんは泣いてるの。やっぱりわたし、何か間違えたのかな?
はじめてひとを食べたのはいつだったっけ? バケモノってなあに?
もう何にも思い出せない。誰かのために何かをしようとすると、いつもわたしは失敗しちゃうの。
なっちゃん、大好き。ずっと一緒だよ。ぺろりと口の周りをなめるわたしの横で、みいちゃんが一回だけ小さく鳴いた。
かわいそうに。
かわいそうって、誰のこと?
そんなわたしをみて、みいちゃんがつんと知らんぷりした。もう、みいちゃんの意地悪。みいちゃんのことも、食べちゃうぞ。
ゆらゆら、ゆらゆら。夕焼け空の下で真っ黒な影が揺れる。わたしの影はそのまま大きくびよんと伸びて、ぽっかりふうわりあくびした。
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