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「すみません、ちょっとお手洗いに」
どうぞ、と言って高杉さんは切れ長な目じりを下げてにっこりと微笑む。目を伏せながら小さく頭を下げ、私は席を立った。
一旦酔いと、顔の熱をさましたい。
トイレへの道すがら窓の外を見ると、外は天気が怪しくなってきていた。ひと雨きそうな気配だ。
急いでケータイのライン画面を開き、トーク履歴の一番上、「謙也」を選んで「洗濯物取り込んどいて」と打ち込む。
昼過ぎ。めかし込んだ格好をアピールするようにして、テレビゲームをしている謙也に「取引先の人とご飯に行ってくるね」と伝えた時、私はちょっとだけ彼を試していた。
もし一言、相手は男? とでも聞いてくれたのなら、行くのはやめようと思っていた。
謙也はこちらも見ずに「行ってらっしゃい」とだけ言った。微塵の疑いも不安もない、柔らかな口調だった。
100%の信頼。嬉しい半面、ちょっとだけ寂しかった。
私だって年頃の女の子だし、これでも結構人気あるんだよ?
言えない不満を込めて、最後に泣き顔の絵文字を三つ付けて送信ボタンを押した。
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