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夜も更けてきたので、とりあえずお店を出ることにした。
お会計は私がトイレに行っている間に、高杉さんが済ませておいてくれた。スマートすぎる。
しかも私が「申し訳ないので払います」と言うと、「好きな人に奢ってあげたいだけだから、僕の顔を立てて」だって。
好き、なんて面と向かって言われたのは一体いつ以来だろう。
私の中の女がひょっこりと顔を出す。
高杉さんが電車の駅まで送ってくれるというので、甘えることにした。
隣りを歩く高杉さんの方からスーッと爽やかな整髪料の香りが漂ってきて、ほんの少しだけ、このちょっと危険な男の人の匂いに包まれてみたいと思ってしまう自分がいる。
その時、謙也からラインの返信があった。
「了解。迎えいる?」とあったから「大丈夫だよー」と返す。
「彼氏さん?」
隠すことでもないので素直に答える。
「はい」
「嫉妬しちゃうなぁ。今日も彼氏さんのところに帰るの?」
「同棲しているので、はい」
「今日は俺と一緒にいてよ。ダメ?」
立ち止まり、小首を傾げ、じっと見つめてくる高杉さん。
思わず目線を斜め上に逸らすと、ちょうどそこにギラギラと妖しく光る「HOTEL」の文字が。
「……付き合ってもないのに、そんなの、中途半端ですよ」
「おっと、これは一本取られたかな」
高杉さんは何がそんなに面白いのか、高らかに笑って再び歩き出した。
私は一つ大きく深呼吸した後、小走りで高杉さんの隣に並ぶ。
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