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「終わりました!?」 「終わりですよ」  お姉さん、めちゃめちゃ笑いをこらえてる。しまった。  口をゆすぎ終わると、もう一度レントゲン写真がタブレットに現れる。 「大変でしたね。お痛みなかったですか?」 「あ、はい。それは大丈夫です」  これで痛かったら、泣いてる。いや、大人だから泣かない。 「今日はここですね。下の糸切り歯から糸切り歯の間をお掃除しました」  ああ、そこんとこのレントゲン、下の前歯っぽいもんな。 「歯周ポケットが大体3ミリのところなんですけど、こことここは5ミリあります。全体的にも歯石はあったんですけど、特にここは大きめの歯石がありました」  ボールペンが指し示すところがどこに当たるのか、詳しくはわからないけど、まあ何となくわかる。多分、時間かけてたとこだな。骨じゃなかったのか。ちょっと安心した。 「全部取りましたから、ご自宅でのハミガキと歯間ブラシ、頑張って下さいね」 「はい」  とりあえず、今日の俺は頑張ると思うよ。 「最後に歯間ブラシのサイズを確認しますね」  それがあったっけ。始める前にそんな話をした気がする。物凄く遠い記憶になってる。  椅子を少し傾けて、歯間ブラシを通される。 「…うん。使ってもらってたのが3Sってサイズだったんですけど、今はSSですね」  よくわからんけど、サイズが一つ大きくなったんだろうってことは予想できる。 「今日はこのサンプルをお渡ししますから、使ってみて下さい」 「わかりました」  勧められて、再度口をゆすぐ。 「おつかれさまです」  お姉さんはそう言うと、エプロンを取ってくれる。 「はい、こちらお持ち下さいね」 「ありがとうございます」  差し出された歯間ブラシを受け取り、俺は立ち上がる。立ちくらみがしそうだ。 「麻酔があと1時間は効いてると思いますから、唇噛まないようにお気を付け下さいね。お大事にしてください」  笑顔とその声に送られて、診察室を出た。  最初に座っていたソファを見ると、龍樹は呑気にマンガを読んでる。  その隣に座ると、顔を上げた。 「おかえり。どうだった?」 「ん? 普通」 「何だよ普通って」  龍樹は笑う。俺もわからん。 「で? あと何回来るの」 「5回」 「5回かぁ」  龍樹もうんざりした声を出す。 「しょうがないなぁ。麻酔してんの?」 「してる」 「昼までには切れるかな」 「多分。タバコ吸いてぇ」 「落とすから、麻酔切れるまでやめときなよ」  そうか、そうだな。下唇だし。 「安永様」  受付から声がかかる。龍樹は立って行って、会計を済ませてくれる。 「玲次、来週空いてんの?」  龍樹に一緒に来てもらえるのは、土曜日だけだ。平日はあいつが仕事だし、日曜日はここがやってない。 「午前中なら」 「来週の午前中空いてますか?」  予約もとって、戻って来る。 「帰ろ。スーパー寄ってくよ?」 「おう」  立ち上がって、玄関を出る。  あと5回か。龍樹に診察室まで来てもらおうかな。  バカだろ、って言われるか。
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