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Page.7
「終わりました!?」
「終わりですよ」
お姉さん、めちゃめちゃ笑いをこらえてる。しまった。
口をゆすぎ終わると、もう一度レントゲン写真がタブレットに現れる。
「大変でしたね。お痛みなかったですか?」
「あ、はい。それは大丈夫です」
これで痛かったら、泣いてる。いや、大人だから泣かない。
「今日はここですね。下の糸切り歯から糸切り歯の間をお掃除しました」
ああ、そこんとこのレントゲン、下の前歯っぽいもんな。
「歯周ポケットが大体3ミリのところなんですけど、こことここは5ミリあります。全体的にも歯石はあったんですけど、特にここは大きめの歯石がありました」
ボールペンが指し示すところがどこに当たるのか、詳しくはわからないけど、まあ何となくわかる。多分、時間かけてたとこだな。骨じゃなかったのか。ちょっと安心した。
「全部取りましたから、ご自宅でのハミガキと歯間ブラシ、頑張って下さいね」
「はい」
とりあえず、今日の俺は頑張ると思うよ。
「最後に歯間ブラシのサイズを確認しますね」
それがあったっけ。始める前にそんな話をした気がする。物凄く遠い記憶になってる。
椅子を少し傾けて、歯間ブラシを通される。
「…うん。使ってもらってたのが3Sってサイズだったんですけど、今はSSですね」
よくわからんけど、サイズが一つ大きくなったんだろうってことは予想できる。
「今日はこのサンプルをお渡ししますから、使ってみて下さい」
「わかりました」
勧められて、再度口をゆすぐ。
「おつかれさまです」
お姉さんはそう言うと、エプロンを取ってくれる。
「はい、こちらお持ち下さいね」
「ありがとうございます」
差し出された歯間ブラシを受け取り、俺は立ち上がる。立ちくらみがしそうだ。
「麻酔があと1時間は効いてると思いますから、唇噛まないようにお気を付け下さいね。お大事にしてください」
笑顔とその声に送られて、診察室を出た。
最初に座っていたソファを見ると、龍樹は呑気にマンガを読んでる。
その隣に座ると、顔を上げた。
「おかえり。どうだった?」
「ん? 普通」
「何だよ普通って」
龍樹は笑う。俺もわからん。
「で? あと何回来るの」
「5回」
「5回かぁ」
龍樹もうんざりした声を出す。
「しょうがないなぁ。麻酔してんの?」
「してる」
「昼までには切れるかな」
「多分。タバコ吸いてぇ」
「落とすから、麻酔切れるまでやめときなよ」
そうか、そうだな。下唇だし。
「安永様」
受付から声がかかる。龍樹は立って行って、会計を済ませてくれる。
「玲次、来週空いてんの?」
龍樹に一緒に来てもらえるのは、土曜日だけだ。平日はあいつが仕事だし、日曜日はここがやってない。
「午前中なら」
「来週の午前中空いてますか?」
予約もとって、戻って来る。
「帰ろ。スーパー寄ってくよ?」
「おう」
立ち上がって、玄関を出る。
あと5回か。龍樹に診察室まで来てもらおうかな。
バカだろ、って言われるか。
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