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判明した以上、治さないわけにはいかない。
セルスクェアで撮影なんかがある時には、必ずサキさんからクリーニングしてくるようにとの命令が下る。スモーカーの俺とタカミには特に厳しい。ヤニでどうしても汚れるからな。
サキさんと芳之は、普段からこまめに審美歯科とかいうところに行って、あれこれとメンテナンスしてるらしい。年に一回は人間ドックとかも受けてるし。スポーツマンのサキさんは、ちょっと健康オタクなところがある。
「お前、削られなきゃいいと思ってるだろ」
今日の本題は、歯の治療じゃない。クリーニングでもない。
「歯周病の治療もめちゃくちゃ痛いんだぞ、だろ。もう聞き飽きたから言わなくていいよ」
龍樹は隣のマガジンラックから週刊誌を取ってめくり出す。完全に飽き飽きしてやがる。
何で一歳しか変わんねぇのに、俺が歯周病でこいつにはないんだ。
納得いかない。
しかも、今回は再発だからな。何年か前に死ぬ思いでやってもらったにも関わらず、今回の検診でまた炎症起きてますよーとか言われた。
道理でハミガキすると血が出るはずだよ。嫌な予感はしてたんだ。だから検診来たくなかったんだ。って言ったら、龍樹に軽く殴られたけど。
「安永様どうぞー」
今この瞬間に、どうにかして香坂龍樹に婿入り出来ないだろうか。出来ないな。
龍樹は雑誌を見たまま、片手で俺の肩を叩く。
「はいがんばってー」
棒読みだ。心がこもってない。俺のことを愛していないのか。
とか言ってても仕方ない。ここでしれっと立ち上がらないと、俺の二枚目という立場がない。既にないような気もするが。
立って行くと、一席ずつ区切ったブースの一つに案内される。
「こんにちは。お変わりないですか?」
「はい…」
椅子に座ると、紙エプロンをかけられる。
「では、今日からまた歯周病の治療を始めていきますね。以前にもされてますけど、ご説明は大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」
聞けば聞くほど嫌になるから、聞かないに限る。
「はい。では検査から始めますね。お背中倒します」
お背中を倒されるのは、美容院だけにして欲しい。
「では開いて下さい」
ここで口を開かなかったら子どもだよな…。生後45年は大人なので、しぶしぶ口を開く。
「歯ぐき触っていきますから、少しチクチクしますね」
チクチクしないでくれ。それを聞くだけで辛い。辛いけど、先に言われなかったら余計に怖い。永遠に解消できないジレンマだ。
言った通り、触られたところがチクチク痛む。いや、痛いって程じゃないけど。でも痛い。緊張感が高まる。こんな段階踏まないで、やるなら一思いにやってくれ。いや、それも嫌だ。
触りながら読み上げられて行く数字を聞いていると、全部悪い数字に聞こえて来る。もうダメだ。
ようやく終わって、椅子を起こされる。ちょっとほっとしながら口をゆすぐ。
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