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「やめましょうか」
「えっ」
えって言うか、前も言われたわ。でも、「やめた方がいいですよー」くらいの感じだったぞ。今、きっぱり「やめましょう」って言ったな。
「おタバコ吸われてる方は、どうしてもリスクが高くなりますから」
「あー…減らします」
「減らすところから始めます?」
減らすところ「から」ってことは、最終的にはやめろと。
「…はい」
やめられる気は一切しないんだけど、この返答は「イエス」か「はい」しかないじゃないか。
「頑張って下さいね」
にっこり笑い、彼女はタブレットを置く。
「歯周ポケットの中に、また歯石と汚れがついてますから、今日からお掃除していきますね」
「…何回くらいかかります?」
「以前にされてますから、4回くらい」
あと3回も来るのか。
「と思ったんですけど、今触った感じ、ちょっと多そうですから、6回に分けさせて下さいね」
「6回」
「はい」
マジかよ…あと5回も来るのかよ。
「…はい」
逆らってもしょうがない。俺は頷く。
「今日は下の前歯から始めますね」
あっ、そうだ。
「あの、麻酔はしてもらえますか?」
過去の記憶が甦ったぞ。確か、痛くて麻酔してもらったんだ、これ。
「はい。今回も麻酔していきますね?」
「お願いします。何なら全身で」
「それはやってませんよー」
ですよね。気を失ってるうちに終わりたかった。
「少々お待ち下さいね」
この待ち時間が針の筵だ。この、薬の匂いとか、どっからか聞こえるキーンって音とか…うわ、子どもがギャンギャン泣きながら来たよ。俺も一緒に泣いてやるよ。
「お待たせしました」
違う白衣の人が来た。この人はドクターなんだな。更に高まる緊張感。
麻酔もほんとは嫌なんだよ。したくないんだよ。もうこれはギリギリの選択肢なんだ。
「じゃあ麻酔しますね。椅子倒しますよー」
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