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とりあえず目を閉じる。なるべく情報量を減らそう。
歯ぐきに重い痛みがズシッとくる。痛い。痛みが痛い。何か日本語おかしいけど、ちょっと今考えられないから、このまま行く。痛みが痛い。続けて不快な苦味っつーか辛味っつーか。
不味い…。なんて思ってるうちに、痛みが消えてる。麻酔、グッジョブ。
「はい、お口ゆすいでください」
椅子が起こされ、俺は急いで口をゆすぐ。よし、今日の俺頑張った。後で龍樹に自慢してやる。
「少し時間おきますね」
いやもう、速攻で始めてもらって、一秒でも早く終わりたい。でもあれか、完全に麻酔効かせる時間なのか。それなら慌てて始めて、痛い思いすんのも嫌だな。
目を閉じると、匂いと音と泣き声が余計に際立って感じられる。帰りたい。
仕方ない。目を開けて、パソコンのディスプレイで流れている「虫歯ができるまで」みたいな映像を眺める。これはこれでまた、虫歯に直面させられて気が滅入る。
暫くそうしていると、また声がかかった。
「では、始めていきますね。ご気分大丈夫ですか?」
「大丈夫です…」
ある意味大丈夫じゃないけど。帰りたくてしょうがないけど。
「はい、お背中倒しますね」
まな板の上の鯉になり切りたい。が、気持ちはちっとも切り替わらない。割り切れない。何で俺だけ歯周病なんだよ。
…そうか、龍樹はタバコ吸わないわ。やっぱりお姉さんが言うように、タバコなのか。じゃあタバコやめ…られねぇなぁ…。
「開いてください」
言われるままに口を開ける。40年くらい若返って、イヤだーとか言いてぇ。一応、大人としての体面ってもんが俺にも残ってる。
「洗っていきますね。お痛みあったら、左手を上げて下さい」
えっ、あんな頑張って麻酔したのに痛みがあることがあんのか!? って、顔に出たらしい。
「お痛みあったら、麻酔足しますからね。一回してありますから痛くないですよ」
ビビってんの、見透かされてる。恥ずかしい。
口の中に、吸い込むやつと機械が入る。
あ、痛くないわ。
イヤな音するし、吸い込まれる感じはは不快だけど。痛くないからって油断はできない。
一頻りそれが終わると、一度口をゆすがせてくれる。それからもう一度背中を倒される。
「器具で触っていきますね。こちらも痛かったら教えて下さい」
痛くなることが以下略。
麻酔足してくれるって言ってたしな。観念するしかない。
口の中は自分では見えないんだけど、体感として「ちょっと待って、マジでそんなとこまで何かつっこんでんのか!?」って感じで器具が歯ぐきの中に入ってんのを感じる。
「大丈夫ですか?」
いや、喋れないし。頭動かして大丈夫かな。っていうか、精神的に大丈夫じゃねぇけど。
それでも何とか少しだけ頷く。
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