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「効率良いからって、人の家の窓割んなや」カツ丼が冷えていく中、暮山には熱が入っていく。「てか、お前さあ!」黒ずくめの足元を指差す。「土足じゃぁん!!」暮山は怒鳴る。「あ!すいません」黒ずくめは頭を下げる。「謝って済むなら警察要らねえんだよ!」警察というワードに配達人と黒ずくめはビクンと痙攣する。「おい、黒!身分証明出来るものよこせ!」「えぇ、何で?」「お前に窓ガラス代弁償させるためだよ!」暮山はもっと怒鳴る。「ま、まあまあ。そんな怒らずに」配達人が宥める。暮山は更に爆発。「ハァァアアア!?てめえよくそんな口聞けんな!おい!」「姉さん、姉さん、落ち着きましょ」黒ずくめも宥めに入る。「うっせぇ!てめえらの事情で、人ん家荒そうとしてよぉ!よくそんな態度とれんなぁ!」「ごもっとも、」「返す言葉もない、」暮山はドカンと腰を下ろす。「おい!てめえらも座れ!言わせんな!いちいち!」「し、失礼します」「はい、」二人はおずおずと座る。暮山はカツ丼を食べ始める。「冷てーー!!冷えてるーー!」「すいません」「ごめんなさい」二人は暮山に謝るしかない。「うっせー!」暮山が黒ずくめをどつく。「あ、そうだ!ビール持ってこい!」「ウス」配達人が率先して行動する。「お前もだよ!黒!」どつかれて呻いていた黒が困惑する。「グ!ラ!ス!だよっ!!」「はい!」この部屋は最早地獄と化していた。「肩揉め!」「バッグ置いてこい!」「ビール追加で買ってこい!」「グ!ラ!ス!冷!や!せ!」「テレビの音量下げろ!」「何か面白いことやれ!」数々の使いっぱしりに二人は疑問を覚える。『あれ?何で俺達こき使われてるんだ?』テレビを観て爆笑する暮山を二人は見つめる。グリン!暮山が関節など感じさせない動きで二人を睨む。「何、見てんだよ」「「すいませんでしたぁ!」」二人は土下座に違和感を無くしていた。「あ、そうだ!」暮山が手をポンと叩く。「ガラスの代金、」二人はすべての所持金を持ってかれた。暮山は財布の中を探索している。「お!クレジットカード」黒ずくめのカードだった。「バレた!」小声で呻く。「おい!暗証番号!」「え?」「早く!」「3695です。」「よし、スマホで試して嘘だったら殺す」暮山は慣れた手つきでスマホを操る。「本当は3965です!」「黒さん、あの人に嘘はいけませんよぉ」配達人は早くもこの環境に適応しつつあった。俗に言う、コバンザメ ポジションである。ピロリン!暮山のスマホが軽快な音を立てる。「よし、引き出せるな。今後は私の使用分も払っとけ」暮山は笑いながら告げる。「終わった…」「僕も支払い手伝いますから」「配達君!」虐げられる二人の間には、確かな友情が生まれていた。「これ買っちゃお!」暮山は二人を見向きもせず、高額であろう買い物を続けている。「あ、そうだわ」暮山が二人を見る。「すいません!」「ごめんなさい!」二人は反射で土下座する。「なーに謝ってんの、今日は帰っていいよ、じゃーね」そう告げると暮山はまた高額であろう買い物を始めた。「買っちゃお!」帰宅許可を出された二人は、目を合わせ抱き合う。「「生き残ったんだ!俺達!」」「うっせぇ!はよ帰れ!」「失礼しました!」「お疲れ様でした!」二人は長年鍛えた軍隊のような揃い具合で玄関に行軍する。黒ずくめがドアノブに手を掛けたとき、「オーイ!来週もこの時間位に来いよ!酒もなぁ!」来週もかぁ。思っても二人は口に出せない。代わりに出したのは「「了解しました!」」「酒と」「つまみ」「「買ってきます!」」息の合った犬の返事だった。「おう!またなぁ!」暮山が手を振ってきてる。二人はヘコヘコしながら退出した。外はすっかり深夜の空気だった。「あー、長かった」黒ずくめが思いを吐き出す。「そうっすね。俺も今日は3.4件強盗しようと思ったのに、もう深夜かぁ」配達人も溜め息をつく。「あれ?配達君って今話題の『Uber the eats』強盗?」「そうすっよ」「へー、有名人じゃん!あれ?今は東北で被害が出てんじゃないの?」「あー、そろそろ東北終わりでここが関東最初の『Uber the eats』強盗の予定だったんですけどね」「ん?てことは集団で捜査撹乱してるってこと?」「そーゆー事です」「へー、」ピロリン!黒ずくめのスマホが鳴る。「あぁ、もうこんなに使っちゃって」「ドンマイです」「さっきから何で敬語?」「俺まだ大学生なんで」「へー、そーなんだ」「今、三年生です」「でも、同じ魔窟に迷い込みし仲間なんだから敬語じゃなくていいよ」「分かりました!ぼちぼち変えてきます」「うん、でだけど。来週も来る?」「何か行かないと死にそうっすよね」「なんかねぇ」「じゃあ自分つまみ買ってきます」「うん、俺酒買ってくる」ヒュウウウウ 深夜の夜風が二人の間を吹き抜ける。少しの沈黙後、二人はなんとも気まずく別れた。 了
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