受け渡し

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受け渡し

「『Uber the eats』です。お届けに上がりました」配達人の男はテキパキとお決まりのセリフを暗唱していく。暮山は無視してスマホの確認画面を目指す。「では、確認画め」暮山は言い終わる前に確認画面を見せる。「、はい。確認しました。商品はこちらです」配達人は淡々とリュックからカツ丼を取り出す。受け取った暮山はカツ丼の熱さを手で感じる。片手でカツ丼を持ち、もう片方の手でドアを閉める。ガタッ!閉まらない。暮山が視線を上げると、配達人が足を挟んで進路を妨害していた。「え?何?」配達人は足を挟んだまま淡々と懐から包丁を取り出す。「え?え?」暮山は事態を理解できない。配達人は淡々と言う。「下がれ」包丁が怖くて、暮山は後退する。すると男はドアをくぐり、部屋に侵入してくる。「え?何で?何なの?」暮山はカツ丼と共に後退を続ける。配達人は包丁を持ったまま暮山に近付く。しかし暮山も後退するから距離は縮まらない。ミシッ、ガシャンッ!暮山の後ろで音がする。咄嗟に振り向くと、窓ガラスが割れていた。窓ガラスに出来た穴から手が出てくる。その手は窓の鍵を開ける。ガララ。窓を開けて男が入ってくる。窓ガラス割り男は、黒のスウェット上下に黒のニット帽。全身黒ずくめだった。暮山は黒ずくめと目が合う。黒ずくめは驚いた顔をした。「いや、いるんかい」黒ずくめが呟く。暮山はリビングの電気を付けずに過ごしていたから、いないと思われたのだろう。暮山はここで配達人強盗を思い出す。配達人に視線を戻すと、配達人も驚いていた。「え?何?」配達人も思わず心の声が漏れる。「え?何?」は暮山のセリフだ。カツ丼を『Uber the eats』しただけで強盗と空き巣に挟まれているのだから。そんな今も、暮山の手に収まるカツ丼の温かさが刻一刻と奪われていく。早く食べたいのに!暮山は心の中で叫ぶ。今日は仕事が忙しくて昼を食べ損ねたのだ。空き巣も混乱している、当然だ。誰も居ないと思ったら四角いリュック背負った強盗とカツ丼持った住人がいるのだから。ここで暮山は気付く。「てか、何窓ガラス割ってんだよ!」「確かに、」配達人が同意してくれる。「いや、これが一番効率良いんだもん」
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