帰り道

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 私は火葬炉に入っていく瞬間がものすごく嫌だ。  二度と、二度と、この姿をみることができなくなるからだ・・・。    そしてひたすら待ち、収骨の準備ができるとアナウンスが流れる。  場内は皆、喪服姿の人でいっぱいだ。  お盆はなぜか亡くなる人が多いと聞いたが、本当だと思った。   お骨になった弟を連れて戻った。  その頃流行っていた歌が頭の中に流れてきた。  「千の風になって」  なぜ、今だ?  この歌は誰の為なのだ?  私は小さな骨壺を手にしていた。  それは弟の「喉仏」を入れた物だ。  大切に、でも歌詞がループするので手に力が入ってしまう。  骨壺を両手で持っていたいから、涙も拭けない。  あれほど騒いでいた子供たちも、静かだった。  「きえろ」と願った連中はそれでも数十人は残っていた。  繰り上げ法要をした後最後に私と夫と母で、住職様に挨拶へ行った。  「死因はなんですか?」  突然の葬儀を受けてくださった住職様が、死因を知らないはずはない。  母はしどろもどろになりながら、  「・・・事故死です」  「そうですか」  住職様はすべてお見通しだったがそれ以上何も言わなかった。  あえて尋ねたのだった。  何か煙が上がっていく感じがした。  それでも母に代わって事実を伝えることができなかった。  誰も心の整理がついていない、何が起きてこうなったのかはっきりとはわからない。  だからすぐに「自殺です」と、私も言えなかったのである。  でも自分の両の拳は膝の上で固く握られていた。  悔しかった。  「弟の真実」をどう捉えていけばよいのか・・・。    警察官にも思い切り反発したかった。  上司も襟首つかんで問い詰めたいことは山ほどあった。  昼の弁当のことばかり話す叔父にも腹が立ったし、  落ち着きのない子供たちを遊ばせて騒がせたくなかったし、  眉間にしわを深く寄せるだけの母親も怒鳴りたかったし、  母を遮ってでも住職様には真実を伝えるべきだった・・・  その都度私は、我慢をしていた。  自分の心が爆発しないように。  もうメラメラと炎が舞い上がり、感情の導火線に近づいていたからだ。    
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