帰り道

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 殺意に(みなぎ)った日常で、ついに限界を感じた。  表面上では取り繕っても、急に激しい悲しみが襲ってきたりする。  そして抑えきれなくなるような怒りに、震えていた。  すでに注意力散漫でミスも多発していた。  もう、ダメだ。  弟を助けられなかったのに、なぜ私はこんな仕事をしているのだろう。  なぜこいつらは皆、生きているのだろう。  なぜ私も、あの日から命が続いているのだろう。  家に帰れば家事がある。  夫はまた単身赴任地へ戻る。  皆、日常に戻っている。  子供を寝かせた後、首がおかしくなるほどねじ曲げて泣きもだえた。  私だけ、どうしても戻れないのだ。  今度は私は逝ってしまいそうだった。  だから突然退職することを決め、師長に告げた。  引きとめられることもなかった。  その程度だった自分を笑いたくなった。  もういなくてもいいんだって。  あえてスタッフに話すのは退職日の朝にしてくれと頼んだ。  これから忙しくなっていく時期。  人手が減ることでスタッフの負担は増える。  それを前もって話すつもりは毛頭なかった。  突然の退職、それが私の仕返しのようなものだった。    誰に対して・・・というより世の中に。  看護部長には 「子供がいるんだから夫(弟なのに勘違いした様子)を亡くしたくらいで落ち込んでないでしっかりしないと」  と、医療職のトップとは思えない言葉を感情のない口調で言われた。  こいつもアホなんだ、と思った。  そしてお前も、死ね。  あくまで礼儀としてとお菓子を渡すと、急に笑顔になって  「体壊さないように元気でね」  お前が体壊せ。  死ね。  
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