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翌日、19時20分。
三日月とちらちらと輝く星と黒々とした海。
人影ひとつない夜の浜辺に私は座っていた。
「遅いなぁ……」
約束の時間まであと十分。
林田さんはもう来てると思っていたが、姿が見当たらなかった。
よせては返す波の音だけが夜の浜辺に満ちている。
波の音は心地よく、体の内側にある何かと響き合って一つになるような一体感があった。
穏やかな波の音と夜の暗さのせいで、私はうとうととしてしまう。
突如、辺りが明るくなりパンッという音とともに夜空に大輪の火の花が咲いた。
黄金色の花弁が流星群のように頭上に降る。
「花火……こんなに近くで初めて見た……」
近くで見る花火はそれはそれは大きくて、太陽の子供か花のような明るさで、圧倒的な迫力だった。
夜空が多くの花々で彩られていく。
一瞬のために咲き誇る花たちはこんなにも美しいのだと感じる。
こんなときこそ、写真を撮るべきなのに林田さんは来ない。
それから花火は最高潮の輝きを迎え、幕を閉じた。
結局、林田さんは来なかった。
何か急に都合が悪くなったのかもしれないし、具合が悪くなったのかもしれない。
私はそう考えることにした。
また会えるだろう。
そのときは花火のお礼を言おう。
そんなことを軽く考えていたが、その後、私が林田さんに会うことはなかった。
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