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ガシャン!と派手な音が聞こえた。ああ、と俺は大きくため息を吐いてジョウロを地面に置いて歩き出す。
足が悪くなり、息子や孫達が東京に出ていてしまってからもこの土地に暮らし続けた理由。少しでも、馬鹿な連中の眼を覚まさせる役目を担いたい、なんて安い正義感に駆られてしまう一番の原因は。
「……忠告したというのに」
道路の真ん中に落ちている、一台のカメラ。
先ほどの女性記者が持っていたものと見て間違いないだろう。――こうやって、すぐ目の前で消えるのがわかっていて、どうして見て見ぬふりなどできようか。殆どの場合、止めることなどできないわけだけれど。
「何が写るかわからん。それでも“撮った者は消える”。……誰が言うたか、“撮った写真が問題”などと」
何が写るかわからないけれど、“写真を撮る”という行為をすれば何故か人が消えてしまう土地。原因も、理由もわからない。自分が知っているのはただそれだけのことで、そもそも片道切符である以上試しに写真を撮ることなどできるはずもないのだから。
「言っただろう、“撮るな”と」
住む人間の、多くが逃げ出してしまった土地。
呟きはただ、蜃気楼と共に儚く消えるのみだった。
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