とるな。

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とるな。

 テレビと違って、雑誌記者というヤツは“文章”と“写真”だけで勝負をしなければならない。ましてや私達のように、他のマスコミ以上に嫌われ気味のゴシップ雑誌なら尚更だ。いかにキャッチーなフレーズと、衝撃的な写真で読者を惹きつけるかを常に考え続けなければいけない。ただでさえ、雑誌業界は不興どころでなく不興なのだから。 ――ていうか、うちの雑誌いつからオカルト方面触るようになったのよ。確かに、近隣住民も警察官も行方不明になる廃屋とか、興味ないわけじゃないけどさあ。  G県N市、N地区。会社から一時間以上車を走らせるハメになったのは、途中で渋滞に捕まったのが最大の原因だった。よりにもよって、私がこちらのルートを通る時に限って事故らなくてもいいのに、と思ってしまう。何で真夜中とか、全く無関係の時にトラブってくれないのか。電車の人身事故といい、ついつい“空気を読め”と怒鳴りたくなってしまう。  我ながら、最近ピリピリしている自覚がないわけではないのだ。私が、というより会社全体が嫌な空気に包まれている。販売部数の落ち込みと、某アイドルのお家騒動の裏話を特集したところネットで散々バッシングされて、クレーム電話が鳴りっぱなしになったというのが大きい。週刊千秋はもう買わない!なんて不買運動が一部起きているというのだから迷惑な話だ。我々はただ、“痴漢被害に遭ったという某アイドルが、実は痴漢した男の元カノだった疑惑”を密着取材して一面に載せただけだというのに。“そういう噂があって、真実かどうかはわかりません”と報道しただけで、何故こうも叩かれまくらなければいけないというのか。  確かに、不確かな情報が多かったのは否定できない。真実か、しっかりウラが取れない情報であっても、“真実味”があって“面白味”があれば紙面に載せてしまうのが自分達のやり方であることも確かだ。けれどそれが通用するのは、本当かどうかわからなくても芸能人のゴシップを面白おかしく楽しみたい、と購入する読者がいるからなのである。需要がなければ、自分達とて芸能人に“密着”して不倫やらトラブルやらを面白おかしく書き立てることなどしないというのに。何故、読者のの“希望”を叶えているだけの自分達ばかりが、こうも批判に晒されなければいけないのだろうか。 『さすがに、これ以上不買運動を続けられるわけにはいかねーんだよ。上もキレかけてるしな』  酒の飲み過ぎですっかり肝臓がやられている編集長は、土気色になった顔で私にそう命じてきた。 『とりあえず、少し芸能人方面に回すのは控える。一般人が興味持ってて、でもって叩く要素のなさそうな方向で一つネタが拾えた。お前、急いで取材行って来い。なんでもいいからそれっぽい写真撮ってまとめてくれればそれでいい、オカルトは今も昔も安定してるっちゃ安定してるからな』
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