旅立ち

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旅立ち

 ー生きたいとは望んではいけないー 嵐山、渡月橋。 「いつでも帰ってきていいからな」俺が旅に出るため、 嵐山を出発する前ぬらりひょんこと、おじい様は笑顔を 浮かべながらそう言った。俺は十六で此処を出ると決め ていた。ある罪を償う為に…。おじい様は何か心配 らしい。俺が死なないかって。まあ、おじい様や、 大切な人達の前ではそんなことはしない。本当は罪を 償ったら今すぐにでもこの世から去りたいけれど…。 「伊吹ちゃん、危ないことには首を突っ込まないこと よ。それと旅に出てからすぐに死んじゃだめよ」雪女 の雪さんが何度も同じようなことを言ってくる。 「伊吹、何かあったら俺を呼べ」鵺さん、酒呑童子が ついていますから…。「おい、酒呑童子。伊吹に何か あったら承知しないぞ」鵺さんは酒呑童子を睨んだ。 「だから、何も起こらないし!」可能性は低い。俺、 不幸を呼ぶ体質だから。ごめん、鵺さん。絶対何か 起こる。「伊吹」「はい、おじい様」俺はおじい様に 向き合う。「もしもの時はすぐにここへ帰ってくると いい」嬉しい。でも…おじい様は分かってて言って いる。俺が此処に帰ってこないと。それでも… 気持ちは受け取っておこう。「考えの中に入れて おきます」おじい様は目を細め、俺の頭を撫でた。 「はぁー…お前に心から信頼できて愛せる者が出来る といいんだがな」そんなもの、できるわけないと思う。 幸せになってはいけないから。今も本当は だめなんだ…。罪を犯した者は幸せにはなれないの だから。俺はその、あの頃からの考えを心の内に 閉まって酒呑童子を呼んだ。 そして…「おじい様、行ってきます」 二度と帰ってこないだろう。また、ここに戻ったら 幸せになりたいと思ってしまうから。それに俺の償いの 旅は死ぬまで終わらないから。おじい様達はそれを 知らないだろう。いや、知らなくていい。 俺個人の問題に巻き込みたくないから。 「…行ってらっしゃい」優しく皆は送り出してくれた。
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