恩人の愛していた者

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恩人の愛していた者

数十年前… 土方さんら一行は江戸の多摩にいたらしい。 道場でギリギリご飯を食べられるくらいの 生活だったらしい。そんな中、ある女性が 現れたそうだ。その名は… 「橘小百合。異様に強くて、土方さんでも 勝てなかった」沖田さんが苦笑いをする。 それ程までに強かったのか。「いつも笑顔を浮かべて て…優しかった。世界で一番あの人が優しいんじゃ ないのかってくらいな」昔から優しい人間なんて いなかったから、その気持ちは痛い程分かる。 「その優しさに土方さんも惹かれたわけだよ」 …驚いてしまう。じゃあ、いつも話していたあの 惚気話の、小百合お姉ちゃんが嬉しそうに話していた 人は土方さんだったのか…。それと同時に後悔や、 罪悪感が心を満たした。あの人の家族だけじゃなくて 愛する人も悲しませてしまった。俺のせいで…っ。 泣きそうになる。泣いても何もならないというのに。 「おーい」沖田さんが目の前で手を振っていたので それで我に返った。「ど、どうしたんですか?」 「…大丈夫か?」怪訝そうな顔で見てくる。 だめだ。この人にまで心配をさせては。だから、 笑顔を取り繕って言う。「はい、大丈夫ですよ。 少し考え事をしていたので」上手く笑えている だろうか。不安になって庭を見た。必死に涙を 堪えて。 あの時の沖田さんの気持ちは俺には分からなかった。
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