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伊吹と永倉
「美味っ!やっぱこの店の団子は美味いな!」隣で
嬉しそうに食べている沖田さん。まあ、俺は
食べないけれど。「伊吹、お前本当に俺らの敵では
ないんだな?」何回も言ってくる言葉に頷く。
「はい、長州が何かも分からないんですけど違います」
何かの組織かもしれない。「にしても、お前体細いな。
本当に食べてんのか?」ニヤニヤと笑い、腹を
つんつんしてくる。でも、ある記憶が蘇って
肩を跳ね上がらせて離れた。「…どうした?」
怪訝そうに見つめてくる。「いえ、何でもないです」
この人には言わない。死ぬつもりだし、ある程度
距離をとっておく必要があるから。「そうか。
んじゃ、行くか。」「え、どこにですか?」
沖田さんは笑った。「決まってんだろ、土方さんの
ところだよ」マジかよ…。溜息をつく。沖田さんが
立ち上がったと同時に俺も席から立つ。そして、
後を追いかけた。
数日間、俺は沖田さん達が寝泊まりしている八木邸に
来ていた。そこでほんの少しの隊士の方と親しくなって
しまった。恨むぞ、沖田さん。「おっ、伊吹!」げっ…
来た。歩いて来たのは長くさらさらの髪を結んで
何気にイケメンな永倉新八さん。神道無念流を取得して
いるらしくて剣の腕前は強い。「何ですか」
「歳が呼んでる」土方さんに会うのはあの俺がやらか
した日以来だ。「あ、そう言えば酒呑童子は?」
永倉さんは庭の方へ指を指した。そこには隊士の方と
木刀で打ち合っていた酒呑童子がいた。思わず涙を
流しそうになった。ここの人達は酒呑童子を“鬼として”
ではなく、人間として見てくれていた。それが何より
嬉しかった。少数だけれど人に受け入れられて良かった
と思った。
「早く行くぞ。遅くなったら殺される」
永倉さんが声をかけてくれた。
…この人も土方さんが怖いんだな。
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