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想い人
土方さんは目を細めた。「…そうか。俺はお前を
死なせるつもりはない。だが、一つ聞かせろ。
…お前はどうしてそこ程まで死にたがる」この質問、
何度もいろんな人に言われたなぁ…。別に死にたい
とか逝きたいとか言うのは個人の自由だと思うけど。
まあ、良いや。「それは…」俺だけが知っていること
だ。「俺が罪を犯したからです」誰にも許されること
のない重い罪を。幼い頃の子供が愛に飢えていたばかり
にしてしまったこと。そのせいで多くの犠牲を出した
ことは忘れない。決して…。土方さんはそれ以上聞いて
こなかった。寧ろそれが俺にはとてもありがたかった。
「小百合…?」永倉さんがその名前を言った。聞き覚え
があった。いや、忘れることのできない人の名前
だった。俺を救ってくれた唯一の大人だった…。
「そう。橘小百合。歳の想い人だったんだぜ」その瞬間
目の前が真っ暗になった。嘘…だろ…。俺は立ち上が
った「どうした?」永倉さんが心配そうな声音で
聞いてくる。だから安心させる様に「何でもない
です。少し用事を思い出しただけです。では、また」
頭を下げて、その場をあとにした。本当は用事など
なかった。ただあの場所にいたくなかっただけだ。
土方さんの大切な人を、小百合お姉ちゃんの
命を奪った俺があの場所にいては
いけないんだ。「ごめんなさい…土方さん」
ただ謝ることしかできなかった。それから俺は
土方さんを避ける様になっていった。
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