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襲い掛かってきた暗殺者たちが地面に崩れ落ちた。
「ぐはっ!?」
「がっ…!?」
一瞬の出来事。
暗殺者と女王陛下の間に割って入った一人の青年が瞬く間のうちに暗殺者の集団を倒しきってみせたのだ。
「な、なんという速さっ……」
「これが……女王の護剣……」
気を失った暗殺者たちを護衛の兵が連行していく。
「殺すなよ。首謀者の名を吐かせろ」
「はっ!」
兵に指示を出すのは先ほど見事な腕前を見せた青年だ。
彼は女王陛下直属の騎士団長を務める男で。
名はレオンという。
「陛下。御怪我はありませんか?」
レオンが手を差し伸べる。
それがどうにも面白くなかった。
「これで私を守ったつもりか?」
「はい?」
「お前が出て来なくとも。あの程度の連中私一人で始末できた」
八つ当たりに近い文句を聞いても、レオンは微笑みを浮かべている。
むしろ嬉しそうだ。
「お役に立てたようで何よりです」
「はぁ……可愛くない反応だな」
子供の頃はすぐにムキになって可愛げもあったというのに。
今ではこちらの言うことにも涼しげな顔をするばかりだ。
「それよりも陛下」
「なんだ?」
「暗殺者の存在に気付いておきながらわざと泳がせていましたね」
「うっ」
図星を衝かれて思わず言葉に詰まる。
レオンは眉をひそめている。
「やっぱり。ご自身を囮に使うなんて万が一があったらどうされるのですか?」
「政敵を炙り出すのに一番手っ取り早い方法を選んだだけだ」
お前にとやかく言われる筋合いはないと、付け足すとレオンは肩をすくめた。
「仰る通りですね。私は貴女に従うだけだ」
レオンはこちらの手を恭しく取った。
「貴女がどこへ行き着くのか。それを一番近い所で見届けるのが私の務め」
「……ふん。勝手にしろ」
「ええ、勝手にします」
子供の頃のあどけなさが微かに残る顔で、レオンは告げる。
「奴隷を解放した貴女がどういう王になるのか。私が復讐をしなければならない相手なのか。これからも見定めさせて頂きます」
「はぁ……。そんなこと言われなくても分かっている」
「大丈夫です。今の所、陛下は賢王として君臨されていますから。百点満点です」
唇が手に触れる。
「ですから陛下。どうかお願いします。私に復讐をさせないでくださいませ」
奴隷解放戦争から十年。
ひょっとしたら政敵なんかよりもよっぽど厄介な番犬を育ててしまったことに。
アンリエッタは少しだけ後悔をするのであった。
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