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新車の帰路
ある夜、私は帰路についていた。
もう家は目前だった。その時乗っていた車はピカピカの新車だった。
その車はハンズフリーフォンがついていた。更には、人や物を通り道に察知すると、勝手にブレーキをかけるという仕組みがついていた。文明の力である。
昔の車のことを思えば、これほどまでに発展しているのは考えもつかなかったのではないかと思う。先人たちに羨ましがられることの予想ができた。
そんなこんなで、もう陽が落ちてから何時間か経っている夜中なのに心を躍らせていた。
CDの音楽をガンガンにしてそれとハモりながら、前へ前へと進んでいた。
私が乗っていたのは、勝手に特等席と呼んでいる助手席だ。母が運転している。
まだ未成年だから、私は夢の中でしか本物の車のハンドルを握ったことはない。
プルルルル。
マップを表示していたナビの画面がいきなり着信を告げた。いきなりすぎたので、背筋がゾッとした。
「もしもし。おばあちゃんです。」
電話の向こうに祖母がいることに安心した。
「もしもし。どうしたの?」
「あのねぇ、急に電話したくなって。少し経てば、家に帰ってくるはずなのにね。」
祖母がボソッと弱音を吐いたように思えた。普段はあんなに強がるのに。と、少し感じてしまった。
実は祖母は普段は遠方に暮らしている。しかし、学校行事の見物のために遥々遊びにきているのだ。
「やっぱり、静かに待ってるわね。」
祖母が言うので、
「待っててね。バイバイ。」
と返して、電話を切った。
ギュルルルル。
次の瞬間いきなり車が止まった。急ブレーキがかけられたようだった。
車のモニターには、動物注意のマークが出ていた。しかし、そこにはどんなに目を凝らして見ても、動物はいない。
母が恐る恐るアクセルを踏むと、車体は普段通りにまた動き出した。母は、どうやら、その場が怖すぎて、うんともすんとも言葉を発することが出来なかったらしい。
私はどうしたかというと、
「ふぎゃあああ」
と叫んでしまった。ふで始まったから、赤ちゃんみたいになってしまった。
振り返るもやはり何の気配もない。
冬だから、ただでさえ寒い車体に吹雪が吹き込んだ気さえした。怖い…。
何で止まったのかは、いまだにわからない。
ただ二つ言えることとすれば、文明は便利だ。しかし、時にはそれが牙を剥いて人を脅してくることもあるらしいということ。
そして、今までもきっとこれからもあんなに叫ぶような出来事はないだろうということだ。
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