うつせみ

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ちょっと焦らすくらいだから彼は余裕があるのかもななんて一瞬思ったけど全然そんなことはなかった。ベッドに押し倒されて首筋から点々と口づけが落ちていく。服は荒々しく剥がれ、脚間を強引に開かれた。 「ちょっと……んっ!」 ふとももの間に頭を埋めて蜜を求める貪欲な唇に、逃げる間も制止をかける間もなく吸いつかれる。溶けて、細かいことはどうでもよくなってしまう。 既に私を知り尽くしている指先と舌でいとも簡単に導かれ、背筋に甘美な電流が駆け抜けた。力が抜けてくたっとしても息を整える隙は与えられず、また脚を左右に割られる。 「もう我慢できない。いい?」 「……うん」 口許(くちもと)に膨張したものがあてがわれ、もの凄い質量をもって体内に入り込んできた彼を思い切り掻き抱く。胸と胸とがくっついた圧に息苦しくなった。 「法子……っ、好きだ……っ」 「私も好きっ……菊池君が好きだよ……!」 完全に飲み込んだ。彼は上体を起こしゆるやかな律動を始める。両手を繋いでキスをする。宙で視線を絡ませ微笑み合う。再びひとつになれた感動にどっぷり浸っているからか、薄暗いのに世界がきらきらして見える。 「大好きなんだ。だからこれからも一緒にいて」 「当たり前だよ……私の方が大好きだし」 「それ、まだ言う? どうやったら分かってもらえるかな?」 「あっ! ねぇ、いきなり激しいのっ……」 「好きなくせに」 情熱的に突き上げられて完全に思考停止したが、好きを伝えることだけは止めなかった。わずか数十分で何度その言葉が飛び交ったか定かではないくらい言い合った。 「法子……そのうちさ……下の名前も呼んで……」 ぐったりしながら私を抱きしめて、ねだる。 ――名前。 「颯太」 彼の頬を撫でて、本当の名前を呼んでみた。 「……ん。なんか、慣れないな?」 下の名前で呼んだことは一度もないから、今はまだお互いに慣れていなくてちょっと笑ってしまった。 「そのうち慣れてくよ。当たり前になってく」 「そうだな」 いつかは下の名前で呼ぶのが当たり前になるんだろう。時間の流れと共に私たちも変わっていくんだろう。 「愛してる」 当たり前にふたりが一緒にいる未来を作っていけると確信する。
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