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うつせみ
透明のビニール素材のプール用のかばんを部屋に放り投げると、首からお財布を下げ急いで玄関に向かった。くつ脱ぎに座り込み、お気に入りのピンク色のスニーカーに足を入れたのはいいけど、少しきゅうくつで指をうねうね動かしながらはく。
「法子、宿題はもう終わったのー?」
お母さんがキッチンから問いかけてくる。
「もうほとんど終わってるよー」
たわんだピンク色の靴紐を結びながら答える。もともと成績は悪くないし、宿題を忘れたこともない。夏休みの宿題もほぼ終わっている。
けど体育はとことん駄目で、8月最後の出校日の今日、水不足だとテレビで何度も言っていたにも関わらず行われたプール授業は、いきなり溺れかけてさんざんの出来だった。
もう、プールなんかなくなればいいのに。そうすれば泳げない組に入れさせられて、すみっこでビート板もって必死に息つぎの練習なんてしなくても済むのに。
「5時までには帰って来なさいよ」
「んー」
立ち上がって水玉のワンピースの裾をぱんぱんと払い家を出ると、ぬるい風に体がつつまれ、セミがしゃわしゃわ鳴く声が家の中にいるよりずっと大きく聞こえた。
集合住宅の駐輪場を横切ってアスファルトの路の向かいに小さな駄菓子屋がある。濁ったガラス戸に『たばこ』というシールが貼られているが、ノリが取れかけて四方がめくれているのではがれないように静かに戸を引く。
所狭しと置かれた駄菓子に囲まれ、同じ小学校の子たち数人が目を輝やかせ駄菓子を選んでいた。
今日は何しようかなって悩んでもだいたい買うものはいつも決まっている。10円のチョコマシュマロ、20円の青りんごグミ、20円の棒ジュースを二本、30円のチョコどら焼き。
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