11.男の秘密

1/1
前へ
/18ページ
次へ

11.男の秘密

11.男の秘密  私が、目覚めると病院のベッドだった。  美しい妻と娘、医者、見知らぬ男がいた。 「あなた、大丈夫?」妻が手を握って言った。 「パパ。大丈夫?」娘が泣き出した。  私は子供の頭を撫でようとした。  その瞬間、高圧線に触れたようなショックを受けた。  子供の父を奪った男の手に、神の罰が下ったような気がした。    私は、男が帰宅する姿を見て、親子に暴力を振るっていると思っていた。そう思う事で殺人の罪悪感を薄めようとしていた。だが、ベッドの前で、二人が涙を流している。男が良き夫であったことに間違いはなかった。  私は、親子の姿に取り返しのない罪を犯したと思った。 「わかるか?」  男が勤める会社の林部長だった。  私は、記憶が無いと言った。 「先生、主人は?」  妻が心配して医者に聞いた。 「足の骨折は3ケ月で回復するでしょうが、事故で記憶障害があるようですね。記憶の回復は時間がかかるかもしれません」  医者が言った。  その後、妻は毎日のように病院に見舞いに来てくれた。  私はベッドの中で、毎日妻に質問を繰り返し学習した。  つじつまが合わなくなると、事故の後遺症のせいだと言った。  私は3ケ月後に退院し、男の自宅に戻った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加