13.部長室

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13.部長室

13.部長室  翌日、林部長に呼ばれた。  部長室に入ると、部長はドアを閉めるように言った。  短髪で角刈りの40代の男は180cm位あり、体格が良かった。  浅黒い顔は建設会社部長というより土建業の手配士のような雰囲気があった。  すごみがある。黙っていても威圧されるようなところがある。  この男の前身はやくざではないかと思わせるほどだ。 「体はもういいのか?」  優しい口調だったが、いら立っているようにも見えた。 「お陰様で」  様子をうかがうように言った。 「記憶はどうなのだ?」 「……いえ、まだ何も」  事情が分からず答えた。 「特養老人ホーム(65歳以上の身体等の障害のため看護が必要な人が入る施設)建設の件を覚えていないのか?」 「……」 「厚労省のA事務次官に金を渡して許認可をもらっただろ。 うちは中堅の建設会社だが、不景気で受注は頭打ちだ。 そこで、グループ会社を作って、特養老人ホームの事業に乗り出した。 事業の許認可を得るため、A事務次官に近づいた。 Aは福祉10年計画を作って増床を画策していた。話はうまく進んだ。 俺はAが立派な男だと思ったよ。ところが許認可するには3000万出せと言う。あきれた男だ」  部長はAをさげすむように言った。。 「建設費は1/2が国、1/4が県、1/4.を市町村が負担する。建設費を上乗せしてその金を還元しろとも言ってきた。 Aは来年退官だ。もし、次の次官が建設費に疑問を持ったら俺たちはどうなる。だから、Aを接待した時、お前に録音させたのだ。 あの録音があれば、Aは検察だって圧力をかけられる。警察の手が入ったらどうするつもりだ、芋づる式だぞ。 お前の体はどうでもいいのだ。 お前の頭もどうでもいい! 早く思い出せ!  家のローンはまだ20年以上あるのだろ。家族を露頭に迷わせるのか!  お前が捕まったら、奥さんも子供も世間にいられなくなるぞ!」  部長は私に罵声を浴びせた。 「申し訳ありません」  私が部長室を出ようとすると、 「待て、本当に記憶がないか?」  部長は不気味な顔で言った。 「ええ、ですから何も」 「じゃ、俺が思い出してやる。歯を食いしばれ」  部長の口元が歪んだ。  私は部長の言葉の意味が分からなかった。  部長は引き出しから金属製のプロテクターを取り出した。  革製の手袋の甲の部分に金属が張り付けてある。 「記憶がないだと。ふざけるな!」  部長は金属製のプロテクターを両手にはめると、私の腹をサンドバッグのように叩いた。 私は悲鳴を上げて、痛みで崩れそうになったが耐えた。 「痛いだろ、何か思い出したか?」 「……」 「これでもか」  部長は再び私の腹を殴った。 私は再び悲鳴を上げ、ついに床に崩れた。 「ダメか? 殴れば思い出すと思ったが。出ていけ!」 私は、痛みと恐怖で脂汗を出していた。礼をして部長室を出た。 私の腹にあったアザは部長の拳だったのだ。 私は怖くなった。部長は前から男をサンドバックのように殴っていたのだ。 顔を殴れば、傷が証拠となって告発される。しかし、腹なら本人が深刻申告しない限り暴行は表に出ることはない。  A事務次官とは赤坂の料亭で、たびたび会っていたらしい。  死んだ男はいつもこの短期な部長に罵声を浴び、殴られていたのだ。  人間は何度も罵声や殴られたりすると、心が折れてしまうのだと思った。 俺が殺した男は悩んでいたのだろう。 部長から脅され、警察の内偵が進んでいるかもしれないと恐れ。 だから、公園で『俺を殺したいのだろ?』と言ったのかもしれない。 男は家族を守り、家のローンを完済済にするため、私に殺されたかったのかもしれないと思った。だとしたら、男の死体が発見されないと保険は降りない。家のローンもチャラにはならない。男の死は無駄死になってしまう。 男の心情を思い罪の重さを認めながら、捕まるわけにはいかないと思った。 それに捕まる前に部長に殺されるかもしれない。私は、慌てて自分の机に戻った。    もし、ICレコーダーが見つからないと、今度は私が殺されるかもしれない。  私は慌てて、机に戻り引き出しを探した。どんなICレコーダなのか? 録音が知られないような特殊なライターとかペン型なのかと思い探したが見つからない。  男は几帳面な男だった。もしかしたら文字起こしをているのではないかと思い引き出しの文書も探したがなかった。
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