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15.取調室
15.取調室
刑事たちの取調べが始まった。
任意同行を求めた若い刑事と老練な刑事だ。
「お前、男を殺して成りすましただろ!」
若い刑事が言った。
「何の話です」
「防潮堤の仲間が、お前がいなくなったと警察に連絡してきたぞ」
若い刑事が言った。
「防潮堤の仲間? 知らないな」
「とぼけるつもりか」若い刑事が言う。
「……」
私は黙秘することにした。防潮堤の仲間の話だけでは証拠にならない。彼らと一緒にいたという証拠はないのだ。任意の取り調べで、何日も留置はできないと思った。
「お前さん。隅田川の写真を撮ったろ」
老練な刑事が言うと、私にスマートフォンの写真を見せた。パスワードが、半日で破られるとは信じられなかった。だが、隅田川の写真と言うだけでは証拠にならないはずだと思った。
「よく見てみろ」若い刑事が言った。
「橋を撮った写真ですよ。それが、何か?」
刑事たちは私に吐かせようとしているが証拠はないのだと思った。私が隅田川の写真を見て驚く。それを見て動揺したな! 何故だと追い詰めるつもりなのだと思った。
「目が悪いのか? よく見て見ろ。写真の隅に何かが写っているだろう。それを拡大した写真だ」老練な刑事がA4のプリントを見せた。
隅田川に架かった橋を撮った写真の端にテントとダンボール小屋が写っていた。夏場は暑いのでテントを橋の下に移動していたのだ。橋を撮ったつもりでテントが写っていた。
「ダンボール小屋からお前の指紋が出たのだよ」二人の刑事が怒鳴った。
刑事たちの尋問は昼夜問わず交代して行われた。
取り調べ室の窓のカーテンが閉められた。
取り調べ用の机のライトを顔に向けられ目をつぶるなと怒鳴られた。
睡魔が襲うと刑事たちが起こす。
「寝るな! 寝たいなら、白状しろ!」
刑事は交代しながら言った。
3日目、私は昼夜がわからなくなったが、それでも知らないと言い続けた。
4日目、刑事たちの尋問が理解できなくなったが、知らないと言い続けた。
5日目、ついに私は男を殺して成りすましたことを白状した。
ただ眠りたかった。調書にサインした気がするがよく覚えていない。
翌日、私はパトカーに乗せられて、公園に行った。公園の前の駐車場には何台もパトカーが並んだ。
私は刑事・警官に取り囲まれながら、殺害現場の茂みに入った。そして、男を埋めた場所を指さした。深夜の犯行だったので確信はなかった。ただ、掘り起こしたことは土の色でわかった。
黄色い制止線が張られ、ブルーシートが四方を囲んだ。
「ここに間違いないな!」
事件を指揮していた刑事が言った。
「間違いない。でも死体を見るのは勘弁してくれ」
私は刑事たちの前で土下座して懇願した。
しかし、掘ってみるとハンマーと、アルミケース、男が着ていた服しか出てこない。
「お前! 本当にここに埋めたのか!」
若い刑事が怒鳴った。
私はわけがわからなかった。
「ここに埋めた! ここだ! ここに……」
私は絶叫して暴れた。自分では体を制御する事ができなかった。
「取り押さえろ」刑事たちが何人も折り重なって私を抑え込んだ。私は気を失った。
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