17.ドッペルゲンガー

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17.ドッペルゲンガー

17.ドッペルゲンガー  私は、Fとして退院することとなった。  病院を出ると、日差しの強さに、一瞬周囲の景色が白昼夢のように見えた。  私(F)は、無意識に振り返り、自分が治療されていた部屋を探していた。  どの窓も鉄格子が入っている。  私は自分のいた部屋を見つけた。  その時だった。  誰もいないはずの鉄格子の窓に、サラリーマンとサラリーマンを殺した男が私(F)を見つめている。  私たちを置いていくのかと、頭の中で囁いた。  私(F)は、『ドッペルゲンガー』という言葉が頭に浮かんだ。  二人の男の記憶を失くし人格も失いながら、この言葉が口をついた。  <ドッペルとは分身という意味で、自分を第三者として見ること。この現象の体験者は、寿命が尽きる寸前の証という話もあるが定かではない>  なぜ、こんな言葉を知っているのか?  サラリーマンの男はストレスをかかえ、懸命に自分に起き始めた異変、症状を調べていたのかもしれないと思った。  医者が、サラリーマンの男は几帳面で、些細な事に悩む性格だったといったのを主出した。  医者はサラリーマンを殺した男は、会社をクビになり、やけになって人生を斜めに見て殺人もいとわない男だったと言った。ただし、実際には妄想から生まれた男で、繊細なサラリーマンの男が自分と真逆の性格に憧れて出現したのだろうと言った。  私(F)はどちらでもないと思った。  いや、記憶を亡くした私に人格があるのだろうかと思った。  人格を亡くした人間が病院から解放されて、社会で生きて行けるのか?  私は何ができる? と思った。
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