18.二度と妻と子を悲しませない

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18.二度と妻と子を悲しませない

18.二度と妻と子を悲しませない  私は病室の窓から踵を返し、前を見た。世間に続く道が広がった。  しかし、私に、頼るものもなく、何の記憶もない。  私が死んでも、世間は池に小石を落した程の変化も起きない。  ドッペルゲンガー現象を見たものは死ぬというなら、そのとおり消えてやろうと思った。  その時、誰かが私を見ているのがわかった。   その方向を見ると、二人の女性が立っていた。  医師から私の退院の知らせを聞いて迎えに来たのだ。 「……あなた」  女性は私をいたわるような目をして声をかけた。 妻らしき女性は髪に白髪ガ目立っていた。 「……パパ」  娘らしいが、私の所持品の写真の娘は小学生だったが、目の前の少女は高校生のようだ。娘は、涙をこらえながら微笑えもうとしている。  二人の姿を見て、10年近く入院していたことが分かった。  この二人は社会からバッシングを受けながら生きてきたに違いない。  本当なら、私に会いたくないはずに違いない。  それでも私を迎えに来てくれたのだ。  私は、涙があふれそうになった。  私には妻と娘の記憶が無いが、娘は妻と私の血で繋がっているのは確かなのだ。  私は、2人の笑顔を見て、家庭を取り戻したいと思った。  私は二度と妻と子供を悲しませたりしないと決意した。  私は、振り返り、鉄格子の窓の2人に向かって叫んだ。 「私は二度と家族を悲しませたりしない!」 「ドッペルゲンガーに殺されてたまるか!」 了
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