2.段ボール小屋

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2.段ボール小屋

2.ダンボール小屋  手を伸ばしてブルーシートをはね開けると明るい日差しが目を直撃した。  コンクリートの防潮堤の平らなテラス(歩道部分)は幅10メートルぐらいあり、防潮堤側にダンボール小屋や、2、3人用のテントがいくつも並んでいる。  その中のダンボール小屋の1が私の寝床だ。  ダンボール小屋の大きさは畳1枚より少し小さいが、体を横にして寝る広さはある。南東の季節風が吹いて夏は蒸し暑く、冬は乾燥するらしい。今は秋だ。 ブルーシートを屋根がわりにつかっている。これなら、夏にも、冬にも対応できる。悪くないアイデアだ。  床には新聞や、段ボールを敷いてコンクリートの冷気や暖気が当たらないようにしている。段ボールはクッションとしも都合がいい。  私は、つい最近ここに移り住んだ。夏はヒートアイランド現象もあって寝ていられない。幸いこの河川で防潮堤+テラスとなっているのは約23キロもある。上空に首都高速が通っているところや、橋が架かっているところもある。夏は日陰を選んで橋の下のダンボール小屋にいた。今は日当たりのよい場所に移動している。 『どうして、ここに住んでいるのかって?』  それは上司と衝突して会社を辞めたから。役職は課長だった……だったと思う。仕事はできたほうだと思うが、その後の就職活動はNG続きだから、本当は実力なんてなかったのかもしれない。肩書で仕事をしていただけなのだ。預金は苦手だったから、いつかアパートを出ることになった。不思議なことに、多少の家財道具があったはずなのに、どう処分したのかよく覚えていない。  過去の記憶がマダラ模様になっている。記憶は時間の経過とともに不鮮明になるが、記憶そのものが変わることはないと思っていた。だが、私は、自分の嫌な記憶を塗り替えてしまったのかもしれない。私の場合、それは酒かもしれない。段ボール小屋には潰れた缶ビールがいくつも転がっているから。
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