4.尾行

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4.尾行

4.尾行  私は、自分にそっくりな男に興味を持った。  誰でも自分にそっくりな人間にあったら興味を持つに違いない。そして、どんな男なのかと思うだろう。だが、普通はそこまでだ。男に近づいて自己紹介をしたりはしない。たとえ似ていても赤の他人だ。人はそこまで寛容じゃない。もし自分が逆だったら? 誰かが似ているので話しかけたのだと言ったら、裏があるのでは? と疑うに違いない。  だが、私は男の素性を知りたいという衝動にかられた。  私が衝動を抑えられなかったのは、一流サラリーマンに見えた男に嫉妬したからだと思う。  私は、寝る時風邪をひかないように、マスクを着けていた。  私はポケットからマスクを取り出すと、顔を隠すように着けた。バイト先の駅は通り過ぎたが、私はその事も忘れていた。  電車が止まり自分に似た男はホームを降りた。男は階段を上がっていった。  私はドアが閉まる直前に、ドアを手で押さえ電車を降りた。周囲の乗客から声が上がったが、謝ることも忘れて男の後を追った。  地上に出るとビジネス街が広がった。  その中をサラリーマンたちが通り過ぎる。  私は、男を追おうとして、サラリーマンの列にぶつかってしまった。  私は最近まで、この流れの中にいたのだと思った。  この中の誰も、突然、クビになると想像する者はいないだろう。  私はクビになって分かった。仕事を真面目にするだけではいけない。  会社の業績に貢献しているか? 自分を必要とする取引先を持っているか?  これを忘れていると私のようになる。  日ごろから上司との関係が密になるよう努めれば上司と衝突しても、クビになることもなかったと思った。
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