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5.大手建設会社
5.大手建設会社
私は、男の会社を突き止めた。
20階以上の高層ビルだ。社名が頭上に掲げられている。大手建設会社らしい。
ロビーは吹き抜けになっていて、3方がガラスになったエレベータは、横幅が3メートル位で4基ある。
出勤してきた社員は、エレベータの前で長い列を作り、2人のガードマンが社員証をチェックしている。
今の服装では、ガードマンの前を通過することはできないと思った。男の会社はわかった。私は、社員の社員証のカードケースとカードケースの紐の色を確認して帰った。
翌日、私はサラリーマン時代の背広に着替え、同じ時刻の電車に乗り男を捜そうと思った。
地下鉄の一日の乗客は90万人だという。同じ時間の地下鉄に乗っても男を見つけられないかもしれない。見つけられなければ、毎日電車に乗ろうと考えた。
だが、男は昨日と同じ時刻の車両に乗っていた。男は几帳面な性格なのだと思った。
私は男が降りると後をつけて、勤務する会社のロビーまで来た。
エレベータの前には、昨日と同じように、出勤してきた社員たちが長い列を作っている。社員たちは、ガードマンに社員証を掲示している。
私は社員たちのカードケースに似た素材を100円ショップで買った。問題は中に入れる社員証がないことだ。しかし、以前にテレビの万引き取締り特集を見たことがある。警備員も、挙動不審者を重点的に監視しているという内容だった。ガードマンもすべての社員証をチェックするのは無理に違いないと思った。俺は何枚もあるクレジットカードから、社員証と同じ色のカードを選んでカードケースの中に入れていた。
私は社員の列に並び、正面を見て警備員に怪しまれないように願った。
カードを斜めにかざして、警備員の前を通過した。心臓が破裂するほど高鳴った。
私は、無事に通過して安堵し、一瞬立ち止まり、ポケットからマスクを出してかけた。エレベータまで数メートルの距離で安心していた。
だが、その間に男がエレベータに乗ってしまった。
私は、慌てて社員の列を抜けて、閉まりかけたエレベータに飛び込んだ。
男と体がぶつかって、男の目と合ってしまった。俺は慌てて身をかがめた。見破られたくないとうとっさの行動だった。
しかし、マスクで顔を覆い、髪型も違うので、男は私に気づかなかった。
私は始めて男を身近で見た。
男の右顎に小さなアザがある。私は息が止まりそうになった。私にも同じようなアザがあったからだ。
私は、男の降りる階を確認すると、一階上に上がってから降りることにした。
このまま男と一緒に降りて、後ろを付けると、気づかれてしまうと思ったからだ。
しかし、男の降りたエレベータホールに戻ると、ガラスドアがあり中のフロアに入れない。私はエレベータホールで、エレベータから社員が出てくるのを待った。
エレベータが止まり、数人の社員が、エレベータから出てきた。先頭の社員が、社員証をガラス戸の横のセキュリティボードに翳しドアを開けた。私は、社員たちと歩調を合わせて後をついて行った。
目の前に、大きなフロアが広がった。30メートル位の幅がある。
社員が、忙しそうに仕事の準備をしている。
私は、ゆっくりとフロアを回って男の部署を確認した。
次は、何処に住んでいるかだと思った。パズルを解くような快感があった。
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