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父は殴られて意識を失った状態のまま、救急車で病院に運ばれた。 やがて意識を取り戻し、警察に被害届を出した。 私はこれまで父に何度酷く殴られても、被害届を出せなかったし、一度父の私に対するDVが近所から通報されて、児童相談所の人が来たことがあったが、児童相談所の人に父に殴られたことを説明しても、相談所の人は"親子喧嘩の末、つい手が出てしまった"と反省しているフリをする父の演技を信用して、父を全く咎めず、結局何もしてくれなかった。 しかし、あの巨体なバケモノは、何故かまた、私を救ってくれたのだ。 なのに、何故、こんな毎日暴力を振るう父が一度殴られると、警察はすぐに傷害事件として捜査を開始し、私の訴えは無視するのか? 児童相談所の人など、私の顔も見ないで、父と"これからは仲良くして"となどと言って帰って行った。 そうは言っても父は父…。 私は入院した父の世話を、学校帰りに母と交替で行っていた。 相変わらず我儘な暴言を吐くし、母は父の私に対する暴力には無視を決め込んで何も言わない…。 翌日。 父の見舞いを終えての、病院から帰り道。 急に前に尋問を受けた刑事に呼び止められた。 この間、父が殴られた件で根掘り葉掘り事情聴取してきた刑事だった。 「お父さんのお見舞い?」 「はい。今帰るところです」 「そう。お父さん、早く良くなるといいね」 「はい」 「あ、そうそう、一つ聞いていいかな」 「はい?」 「お父さんが殴られた時の状況については前にお話ししてもらったけどさ、君には男性の友達、または彼氏とかいる?」 「いえ、いませんが」 「そう。でもね、実は聞き込みの結果、どうも、前に君も被害者として巻き込まれた校舎の屋上での不審者による暴行事件と、お父さんが殴られた事件の犯人の手口や動機が共通するんだけどね」 「はあ…」 「まずどちらにも君が関わっている。そして…君は学校ではイジメに遭っているし、家ではお父さんに殴られていたという噂がある。前に児童相談所がその件でお宅を訪問してるよね?」 「はい…」 「だからさ、君の男友達か彼氏が、その復讐のためにやったか、または、君がその彼氏に暴行を頼んだんじゃないか?という説が浮かんでるんだけどね」 「彼氏も男友達も、私には全くいませんが…」 というか、イジメられるようになってからは女性の友達すらいない。 「うん…。君の交友関係を洗ったけど、確かに男の影は見えなかった。しかし、何処かにいるんじゃないかなと思ってね、そういう存在が。じゃなきゃ、説明がつかない事件なんだよ」 「あの…私がイジメられていたことは本当です。黙っていたのは、殴られた小田切という生徒にそのことを黙ってろと脅されたからです。話すと、またさらに酷くイジメられるから…」 「取り敢えずイジメ問題の件はどうでもいいよ。それで誰かに復讐を頼んだの?」 「いいえ。お話した通り、訳の分からない巨体な生物がいきなり襲いかかっていったんです」 「巨体な生物ね。バケモノが大暴れしたってこと?ホラー映画みたいに?」 「父の方もそうです。私は父にいつものように殴られていました。私の身体の痣や怪我はバケモノがやったのではなく、父によるものです。そしたら…」 「あのー、親子のDV案件は管轄が違うんでね、今はどうでもいいんだよ。お父さんを殴ったのも君が頼んだ誰かじゃないの?って聞いてるんだよ」 「違います。それも同じ巨体な生物が…」 「またバケモノか…。そんなホラー映画みたいなこと、調書に書けないんだよ。こっちが怒られちゃうよ」 「でも…」 「まあいいよ。今のところは君の交友関係から彼氏だとか男友達の存在は浮上していない。しかし、そのうちに、見つけてみせるよ」 刑事は私を睨みつけてそう言うと、さっさと帰って行った。
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