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その数日後のことだった。 私はいきなり病院の帰りの夜道で、暴漢に襲われた。 フードを被り、サングラスをした男が私に襲いかかって来て、急に首を絞められたのだ。 強盗か? 鞄の中には、大してお金なんか入っていないのに…。 それともレイプ魔か? しかし男はしばらくの間、私を押さえ込んだまま、何もせず、ひたすら辺りを見回してばかりいた。 首に男の腕が巻きついて苦しくなり、激しく咳をしたら、男はすぐに腕の力を緩め、私を傷つけまいとするように、首から腕を外してきた。 一体何? しばらく私は、男に緩く羽交い締めにされた状態となった。 だが、不意に男の身体が私から離れたことに 気がついた。 ふと見ると、男の身体が、いきなり宙を舞っていたのだ。 その時、一瞬"ノイズ"のような声が聞こえて、男はその"音"に反応していたが、男の身体は、まるで摘み上げられたような恰好でさらに宙を舞っていた。 一体、 何が起きた?! 私にはさっぱり訳がわからなかったが、今度は急に男が、身体を宙に浮かせたままの状態で、大声で叫んだので、さらに驚いた。 「確保!!」 男がそう叫ぶと、誰もいなかったはずの辺りの場所から、多くの男達が飛び出してきた。 いや、男達、というか、あれは警察官だ。 多くの制服を着た警察官が、一斉に私と男の方に走って来て、その周辺を取り巻いた。 すると男が、いきなり放り投げられるように宙を飛んだかと思うと、地面に叩きつけられたのが見えた。 サングラスが落下した際に外れたが、よく顔を見ると、私に襲いかかって来たその男は、なんと先日聞き込みに来た、あの刑事だった。 何で刑事が私を襲う?! そして、さらに驚いたことに、私の目の前には、また、 あの巨体な生物が立っていたのだ。 まるで、私を守る防波堤のように、 そこに、ただ立ち尽くしていた。 不気味な微笑みを浮かべて…。 「確保だ!」 刑事は態勢を立て直して起き上がりながら、また大声で叫んだ。 警官たちは一斉に拳銃を構え、銃口を全員が巨体なバケモノの方に向けていた。 だが、 その時だった。 空の彼方から、まるで大きな鳥が羽ばたいているような音が響いてきた。 そして、風と羽根の摩擦音のような大きな音が、頭上を一瞬通過したかと思うと、 次の瞬間、 大量の傘の群れが目の前に降り立ってきたのだ。 これは何だ?! 唖然として凝視していると、傘の大群は一瞬で目の前にいた巨体なバケモノを拘束し、空に飛び立った。 それを目撃していた警官隊も刑事も、あまりに一瞬のことで、呆気に取られてその光景を見ているしか術がなかった。 傘の大群は一瞬の隙に巨体なバケモノを拘束し、そしていつの間にか、空の上高くまで飛び去ってしまったからだ。 ほとんど、何が起こったのかわからないような早技だった。 気がついて、空を見上げると、遠くに見える高層ビルの上を、巨体なバケモノを乗せた傘の大群が、悠々と飛び去って行くのが見えた。 刑事と警官隊は、その光景を、ひたすらなす術もなく、見送るしかない様子だった…。 きっとあの刑事は、暴漢に化けて自分が囮になり、私を襲うことで、あの巨体なバケモノをおびき寄せようとしたのだ。 だが、バケモノをうまくおびき寄せ、警官隊によって包囲までしたものの、あの突如として現れた傘の大群に、一瞬のうちにバケモノを連れ去られてしまったというわけだろう。 不思議な出来事が、ほんの一瞬のうちに、私の目の前で、連続的に巻き起こった。 だが私は、いつも私が襲われると、助けにやって来てくれる、あの訳の分からない巨体なバケモノがうまく逃げ去ってくれたことにホッとしていた。 世間では、悪魔のように凶暴で、暴力的なバケモノでしかなくとも、 私にとっては、 神のような存在だったから…。 そして、警官隊の拳銃に包囲されたあのバケモノを、一瞬のうちに逃がしてくれた、不思議な傘の大群にも、感謝したい気持ちで一杯だった。 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 ある時、人は、それを目撃することが出来る。 そう言えば、そんな都市伝説を、聞いたことがあった…。 「君が言った通りだったよ」 暴漢に化けていた刑事が、私の方にやって来て、すぐにそう言った。 「確かにあれは本物のバケモノだ。人間じゃなかった。バケモノが卑劣なイジメをやっている連中や、DVを繰り返す酷い父親や、いきなり襲いかかる凶暴な暴漢を退治しているんだから、もはや警察官に出来ることなんてありはしないよ。本物のバケモノ退治なんて、警察官の仕事じゃない」 「…。」 「それにあいつは、ただのバケモノじゃない。さっきあいつに言われたよ。"お前が守れ"ってな。俺にそう言ったってことは、あいつは俺がただの暴漢ではなく、警官だって知ってたってことだ」 「え?」 「俺は、これまで、管轄外のイジメやDVは自分の仕事じゃないと思ってた。だけど、あんなバケモノに言われちまっちゃ、これから君をちゃんと守らなかったら、警官の名折れだからな。あのバケモノに恥じないように…さあ、何でも俺に話してくれ」 刑事はそう言って私に微笑んだが、その優しい微笑みは、あの巨体なバケモノが浮かべていた微笑みに、どこかよく似ていた。 (終)
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