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「おい」桜花は殴り合っている二人に声をかけた。「あ?」赤い 髪の男が顔を向けた。「…邪魔すんな」それだけ言い、 再び人魚(セイレーン)を殴る。「通行人の迷惑だ」 桜花の言葉を聞いてくれない。「やめろ」だが、無視される。 次第に桜花は苛立ち、遂に堪忍袋の緒が切れた。 「てめぇら…無視すんじゃねぇ!!」二人を同時に殴り飛ばした。 で、今正座をさせられている。目の前には仁王立ちの桜花が。「あーあ、桜花、 怒らせたら幾ら妖怪でも死ぬよ?そこ分かってる?」エリスが呑気に紅茶を 飲みながら注意する。「こいつがいきなり…」「あ!?てめぇだろうが!」 再び殴り合いそうな雰囲気になる。流石のエリスもため息をつくしかない。 「桜花、どうにかして」煙管を吸っている桜花に助けを求めた。が…「断る」 知らないふりをした。エリスは頬を膨らませた。「桜花の馬鹿…」 「馬鹿で結構」桜花は煙管で殴り合っている二人を叩いた。 「いっ…てめぇ何すんだ!」「くっ…」それぞれ痛みで頭を抑える。 「はっ、自業自得だな」桜花は嘲笑う。エリスも吹き出しそうだ。 「妖怪が、人間にっ…ふっ…!」手で口を抑える。「で、お前ら名前は?」 尋ねると青い方は馬鹿にしたように笑い、「誰が人間に名前なんか教えるかよ」 「あ?」普通の人間なら怯える桜花の気迫も青い方には効かない。 「…俺は茨木童子。鬼だ」茨木童子と名乗った者は素直だった。 茨木童子…それは平安の世から存在している鬼だった。酒呑童子の家臣として 彼の生きていた間まで大江山に住んでいた。「鬼ぃ〜?なんだそれ」青いのには 分からない。仕方なくエリスが説明する。「吸血鬼(ヴァンパイア)と似たような ものだよ。まあ、光も十字架も苦手じゃないんだけどね」首を斬れば死ぬ。 それであの酒呑童子を倒せたのだから。「って、ことはお前は弱いってことだな」 人魚(セイレーン)が茨木童子を煽る。「…そうだな。主君を守れなかったのだから」 先程とは違い、あまりにも弱々しかった。
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